20年前、Dr. Matthias Gromeierは、がん性腫瘍の治療にポリオウイルスが有効と唱えたが、その考えは嘲笑の的になっていた。しかし最近、かつて何百万人という人間を苦しめ、あるいは命を奪ったポリオウイルスが、もっとも致死性の高いがんの一つとされる膠芽腫性脳腫瘍の治療に役立つ可能性が研究によって明らかになってきた。2015年3月29日夜、米CBS放送の「60 Minutes」番組で、レポーターのScott Pelleyが、遺伝子組換えポリオウイルスを使った膠芽腫治療の第I相臨床試験に被験者として参加し、医師からがんが消えたと宣告された2人の患者にインタビューした。
Duke UniversityでSurgeryのAssociate ProfessorとMolecular Genetics and MicrobiologyのAssociate Professorを兼任するDr. Gromeierは、「狂っているというのから嘘つきというのまで様々な反応があったし、ほとんどの人は治療法としては危険すぎると考えていた」と述べている。Dr. Gromeierは、腫瘍をポリオウイルスで治療するという考えを推し進め始めた15年前からここで研究を続けてきた。
当時、そのような否定論者の一人がDr. Henry Friedmanで、現在はDuke UniversityのBrain Tumor CenterのDeputy Directorを務めており、そこでは現在ポリオウイルス治療法の第I相臨床試験が行われているのである。Dr. Friedmanは、Pelleyに、「人間にマヒを起こす病原体を使うなんて、頭がどうかしているんじゃないかと思った」と語っている。それから15年が経ち、研究に続いて動物試験が行われ、人間を被験者とする臨床試験段階に入って、Dr. Friedmanも当時より楽観的になっている。30年以上も膠芽腫治療の研究にあたってきたDr. Friedmanは、「これは私の研究生活でもっとも有望な治療法だと思える」と語っている。
Dr. Gromeierの研究の結果、遺伝子組換えポリオウイルスが動物で安全であることが証明された今、人間に対しても安全と考えられる。この治療法のアイデアは、ポリオウイルスが膠芽腫など固形がんの表面を覆っている分子と結合し、がん細胞の中に入り込むことができるという考えに基づいている。試験では誘導外科手術で遺伝子組換えしたポリオウイルスを膠芽腫内に直接挿入している。この試験に使う遺伝子組換えポリオウイルスは、正常なウイルスのゲノムの一部を切り取り、ライノウイルスの核酸の安全な部分で置き換えてある。その結果、adR. Gromeierの精査済み論文に述べられている複雑な分子生物学的な原因により、遺伝子組換えポリオウイルスは正常細胞内では自己複製できないが、膠芽腫細胞には感染し、その細胞内で自己複製し、しかもその膠芽腫細胞を殺すことができる。これが患者自身の免疫系を刺激して他の膠芽腫細胞を攻撃させ、この活性化された免疫系が最終的に膠芽腫全体を死滅させることになると考えられる。Dr. Gromeierは、「人間のがんはいずれも免疫系の検出機能をすり抜ける自己保護機能を持っている。私たちが試みているのはポリオウイルスを使ってこの機能を無効化させようということだ。まずこの保護機能を取り去り、免疫系にがん細胞を検出させ、攻撃させるということだ」と述べている。
「60 Minutes」の取材班は1年近くかけてこの新しい試みの一部始終を追跡してきた。研究チームがポリオウイルスの挙動を完全に突き止めることができない時には難しい選択を迫られた結果、被験患者にとって不幸な事態になることもあった。試験に参加した22人の患者のうち11人が膠芽腫で亡くなっている。特にこのプログラムでは、先に2人の患者に低用量のポリオウイルスを投与して成功したが、用量を3倍にした結果、患者1人が亡くなるという結果になったことが明らかにされている。これは、高用量のために免疫系が過度に刺激され、それに伴う激しい炎症に脳が耐えきれなかったのではないかと考えられるがそれも確実に判定されたわけではない。この研究の結果、遺伝子組換えポリオウイルスが腫瘍細胞を殺し始めたが、最終的に腫瘍を死滅させたのは患者自身の免疫系だったと考えられている。さらに、すでに述べたように、脳腫瘍の中でも成長が速く致死性も高いことで知られている膠芽腫の患者2人が、ポリオウイルス療法を受けてから3年後に「膠芽腫が検出できなかった」と診断されている。しかし、膠芽腫が治癒したのかという疑問は残る。Dr. Fritz Andersenは心臓内科医を引退し、患者の一人として被験者になった。彼は、司会のPelleyに、「治癒したと思うし、そのつもりで生きている」と語った。Pelleyが会ってインタビューしたもう一人の患者、Stephanie Lipscombは、膠芽腫と診断された時にはまだ20歳だった。彼女は、3年前に遺伝子組換えポリオウイルスを1回投与され、後に「がんが消えた」と宣告されている。
Darrell Bigner, M.D., Ph.D.は、Duke Universityでの第I相試験の責任者を担当した。Dr. Bignerは、Duke UniversityのPreston Robert Tisch Brain Tumor CenterのDirector、Pediatric Brain Tumor Foundation InstituteのDirector、Preuss Laboratory for Brain Tumor ResearchのChiefを兼務している。Dr. Bignerは、脳腫瘍の分野で世界最高権威の一人と考えられており、「60 Minutes」の最後の方で短くインタビューを受けている。Dr. Bignerは、Pelleyに、「私は50年近い研究生活を送ってきたが、Fritz AndersonやStephanie Lipscombのような治療結果を見たことがない」と語っている。ただし、Dr. Bignerは、双方の病症が「寛解」したことは認めたが、「治癒」という言葉を使うのはためらい、「いわゆるC言葉 (cure) を使うのは慎重にしたい。膠芽腫が治癒したと宣告できるまでに何年かかるのかまだ誰も知らない。ただし、今は治癒ということが当てはまるのかも知れないと考えるようになっている」と述べている。Dr. Gromeierは、「試験管レベルでの研究でポリオウイルスを用いた治療法を様々な固形がんで試しているところだ」と述べている。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Modified Polio Virus Used in Fight Against Glioblastomas, 60 Minutes Reports
