マラリア原虫、エクソソーム様小胞経由で「対話」
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オーストラリア連邦メルボルンの研究チームが、「マラリア原虫が互いにコミュニケーションし、種の生存と他の人に感染するチャンスを高くする社会行動をするらしい」という驚くべき発見を報告している。この発見から、マラリア原虫のコミュニケーションの仕組みが解明されれば、そのネットワークを遮断することでマラリアの予防や治療の薬、ワクチンを開発する足がかりになるかもしれない。
Walter and Eliza Hall InstituteのAlan Cowman教授、Dr. Neta Regev-Rudzki、Dr. Danny Wilsonらが、University of MelbourneのBio21 Institute、Department of Biochemistry and Molecular BiologyのAndrew Hill教授と共同で研究を行い、マラリア原虫がエキソゾーム様小胞に情報を詰め、体内の他のマラリア原虫に情報を伝えることができるという証拠をつかんだ。この研究論文は2013年3月15日付「Cell」誌に掲載された。
Cowman教授は、「複数のマラリア原虫が、人体中の無性生殖段階から、媒介してくれる蚊に吸い上げられやすくするため、昆虫内での有性生殖に適した性的に成熟した成体に変化する過程で協力し合っているらしいという発見は研究チームにとっても衝撃的だった。Netaがデータを見せてくれた時、私自身、正直なところ驚いた。信じられないことだった。マラリア原虫がほんとうに互いに信号を送り、コミュニケートしているのだと確信するまで、研究チームは何度もやり方も変えて実験を繰り返した。しかし、やがてなぜマラリア原虫がこのようなメカニズムを必要としているかが理解できるようになった。マラリア原虫は人体から蚊に移される確率を高めるため、有性生殖に適した生殖体に変化するが、そのためには人体中にマラリア原虫がどれくらいいるかを知らなければならないということだ」と述べている。
世界中で年間70万人ほどの人がマラリアのために亡くなっており、その大部分は5歳未満の子供や妊娠女性である。毎年、世界中で何億人という人が、蚊が刺すことで伝染するマラリア原虫、プラスモジウムに感染している。
マラリア発生地域はオーストラリア近隣諸国を含む熱帯と亜熱帯地域に集中しており、世界の人口の約半数がマラリアに感染するリスクを負っていると推定されている。Dr. Regev-Rudzkiは、マラリアの血液感染段階で赤血球に入り込んだマラリア原虫は、 エクソソーム 様の小胞に一組のDNAを包み込んで送り出し、それを使って互いに情報伝達をしているようだとして、さらに、「私たちの研究で、感染した赤血球に入り込んでいる原虫が情報を小さな物体に込めて他の原虫に伝えることができること、特にストレス下においてそのような活動が活発になることを突き止めた」と述べている。さらに、「このような情報伝達のネットワークは、原虫がそのライフサイクルを完結させ、再び人体から蚊に伝染するのに適した時期を互いに合図するために進化した社会行動と言えるのではないか」と述べ、続けて、「原虫がこの情報を受け取ると、その生活形態が変化する。この情報は原虫が生殖母体になるべき時を知らせているのだ。マラリア原虫は生殖母体になって蚊の体内に入り、そこで生殖体になることで生存、繁殖し、次のサイクルでさらに人間に感染して種を維持することができる」と述べている。
Professor Cowmanは、「この発見が抗マラリア薬やマラリア感染を防ぐワクチンの開発につながることを希望している。この研究成果でマラリアに対する考えが根本的に変わったし、マラリア原虫が生き延び、伝染していく機序に関する理解が大幅に広がった。次には、原虫同士の情報伝達に関わっている物質を突き止め、この情報伝達ネットワークを遮断する方法を見つければ、原虫がヒトから蚊に伝染することも阻止することができるはず。それが研究の究極の目標になるのではないか」と述べている。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Malaria Parasites “Talk” to Each Other Via Exosome-Like Vesicles
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