免疫回避の謎を解く シングルセル解析が明らかにした抗原多様性の制御

免疫回避の謎を解く シングルセル解析が明らかにした抗原多様性の制御

サイエンス出版部 発行書籍

病原体は、私たちの免疫システムから逃れるため、まるでカメレオンのように細胞表面の「顔」を巧みに変える「抗原多様性」という驚くべき能力を持っています。この巧妙な変装術のせいで、一度作られた抗体が効かなくなり、感染症の治療やワクチン開発は困難を極めます。特に、アフリカ睡眠病などを引き起こすトリパノソーマという寄生虫は、この変装術の「名人」として知られています。彼らがどのようにして、どの「顔」に次々と変えていくのか、その順番の秘密は長年謎に包まれていました。しかしこの度、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)とヘルムホルツ・ミュンヘンの研究チームが、最先端のシングルセルRNAシーケンシング技術を駆使し、ついにそのメカニズムの一端を解明。次にどの抗原が現れるかを予測する道筋をつけたのです。2025年3月12日に科学誌「Nature」で発表されたこの成果は、トリパノソーマだけでなく、多くの病原体に対する新たな治療薬開発に繋がる画期的な一歩となるかもしれません。 論文タイトルは「Genomic Determinants of Antigen Expression Hierarchy in African Trypanosomes(アフリカトリパノソーマにおける抗原発現階層のゲノム決定因子)」です。研究を率いた物理学者のマリア・コロメ-タッチ博士(Maria Colomé-Tatché, PhD)と生化学者のニコライ・シーゲル博士(Nicolai Siegel, PhD)は、この発見が病原体との戦いに新たな武器をもたらすと期待しています。 「抗原多様性は、進化的に遠縁の広範囲な病原体で見られます」と、LMU生物医学センターの分子寄生虫学研究グループのリーダー(獣医学部実験寄生虫学講座長)であるシーゲル博士は付け加えます。 2025年3月12日に科学誌「Nature

Life Science News from Around the Globe

Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

バイオクイックニュースは、サイエンスライターとして30年以上の豊富な経験があるマイケルD. オニールによって発行されている独立系科学ニュースメディアです。世界中のバイオニュース(生命科学・医学研究の動向)をタイムリーにお届けします。バイオクイックニュースは、現在160カ国以上に読者がおり、2010年から6年連続で米国APEX Award for Publication Excellenceを受賞しました。
BioQuick is a trademark of Michael D. O'Neill

LinkedIn:Michael D. O'Neill