RNAを標的とする新CRISPRシステム「C2c2」の特徴を解明
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ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設Broad Institute of MIT and Harvard、マサチューセッツ工科大学、アメリカ国立衛生研究所、ラトガース大学ニューブランズウィック校、そしてロシアのスコルコボ科学工科大学の研究者グループは、DNAの代わりにRNAを標的とする新しいCRISPRシステムの特徴を明らかにした。
この新しいアプローチにより、パワフルな細胞操作技術が実現する可能性がある。DNA編集は細胞のゲノムを永久的に変更してしまうのに対して、CRISPRベースのRNAを標的とする手法は、調節自由な一時的変更が可能であり、かつ従来のRNA干渉法に比べて特異性と機能性が高いという特長がある。
Broad Institute of MITとMcGovern Institute for Brain ResearchのFeng Zhang, Ph.D.、同僚研究者で共同著者でもあるNIHのEugene Koonin, Ph.D.と、同僚研究者のラトガース大学ニューブランズウィック校とスコルコボ科学工科大学のKonstantin Severinov, Ph.D.は、RNAを標的として分解する能力のあるRNA誘導型酵素、C2c2を同定し、その機能的特徴を明らかにした。
2016年6月2日付Science誌オンライン版に掲載されたこの研究論文は、「C2c2 Is a Single-Component Programmable RNA-Guided RNA-Targeting CRISPR Effector (C2c2は単一成分型プログラマブルRNA誘導RNA標的CRISPRエフェクター)」と題されている。
2015年10月、この共同研究グループは、自然界に存在するC2c2を発見、同定したが、これはRNAのみを標的とする天然のCRISPRシステムとしては初めてのものだった。また、この研究で、C2c2が細菌をウイルス感染から守っていることも突き止められた。研究グループは、細菌細胞の特定RNAシーケンスを切断させるようC2c2をプログラムすることができることを実証した。これは分子生物学研究にとって新しい重要なツールを加えることになるはずである。RNAのみを標的とするC2c2は、細胞のアイデンティティと機能をおさめたゲノム青写真ともいえるDNAを標的とするCRISPR-Cas9を補完するものとなる。
ゲノム指令の遂行を助けるRNAのみを標的にするということから、RNAだけを高スループットで操作し、また遺伝子機能操作をさらに広げることができる。これらのことから、疾患の理解、治療、予防の進歩をさらに促進する可能性を秘めている。
論文の主席著者を務めるBroad InstituteのCore Institute Member、Dr. Zhangは、「C2c2は、パワフルなCRISPRのツールとして完全に新しい地平を開いた。C2c2には数え切れないほどの用途が可能性としてひらけており、これをライフサイエンスと医学のプラットフォームとして開発することを期待している」と述べている。また、主席著者の一人、NIHのEvolutionary Genomics Groupを率いるDr. Kooninは、「C2c2研究で、細菌がウイルスの感染を防ぐために備えている生物学的なメカニズムを発見したが、これは今まで全く知られていなかったことだ。この手法の用途はまったく画期的なものになる可能性がある」と述べている。
従来、遺伝子ノックダウンには低分子干渉RNA (siRNA) を使う方法がもっとも一般的である。研究者達によれば、C2c2RNA編集法により、高い特異性を確保しつつ、幅広い用途が考えられる。たとえば、特定のRNAシーケンスに分子を加えることでその機能を改変し、タンパク質に翻訳される過程を改変することが挙げられるが、これは大規模なスクリーニングや合成規制ネットワーク構築などの貴重なツールとなりえる。あるいは、C2c2を使ってRNAに蛍光標識を付け、RNAの移動や細胞内局在性を調べることもできる。
現在の研究で、研究者達は、C2c2を使って特定RNAシーケンスを正確に狙い、取り除き、対応するタンパク質の発現レベルを引き下げることができた。このことから、C2c2をsiRNAに代わるものとして使い、CRISPRベースのDNA編集の特異性や単純性を補完し、RNAを使って調節可能な遺伝子ノックダウンを実現できることが示されている。C2c2にはツール開発に適した特長がいくつかある。たとえばC2c2は2つの構成部分で成り立っており、たった一つの誘導RNAがあれば機能すること、また、C2c2は遺伝子エンコーダブルであり、組織や細胞に送り込むDNAとして必要な構成部分を合成できるということである。
この論文の共同第一著者で、Zhang Labの大学院生のOmar Abudayyehは、「C2c2発見のもっとも大きな影響は、疾患や細胞機能におけるRNAの役割に対して理解を深める役割を果たすことではないか」と述べている。
写真はCRISPRの構造を示している。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Researchers Unlock New CRISPR System for Specfically Targeting RNA
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