2013年8月13日、米国立衛生研究所 (NIH) は、24件の研究プロジェクトに総額1,700万ドルの助成金を交付すると発表した。これらのプロジェクトは、最近発見された、exRNAと呼ばれる細胞外RNAの作用による細胞間情報伝達の仕組みをさらに解明することを目的としており、この助成金交付で研究者はexRNAの基礎的な研究を行い、その成果を疾患の研究、診断、治療に応用する手段や技術を開発することができる。
助成金を交付される研究プロジェクトは、この新しい科学分野の可能性を十分に開花させるため、exRNAが役立つ疾患の解明に取り組むことになっている。対象疾患として各種のがん、骨髄疾患、心臓疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症などが考えらる。細胞外RNA情報伝達に関する多機関横断型研究プログラムは、NIH Common Fundのサポートで、National Center for Advancing Translational Sciences (NCATS)、National Cancer Institute (NCI)、National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)、National Institute on Drug Abuse (NIDA)、National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS)などNIHの枠を超えた機関が主導して行われた。NIHのDirector Francis S. Collins, M.D., Ph.D.は、「最近発見された細胞間の情報伝達手段についてさらに研究を進めていく非常に広大な機会が開けている。この科学分野はこれからますます重要になると考えられ、その理解を広げていけば健康や疾患に対する細胞外RNAの役割を決定する助けになり、さらにその謎の解明は、我が国の科学者に様々な疾患の診断と治療に新しい手段を提供することになる可能性がある」と述べている。
科学者は、exRNAが身体の機能を調整し、様々な疾患でも重要な役割を果たしているのではないかと考えているが、未だにexRNAの生物学的な基礎情報さえ知られていない。大部分のRNAは細胞内で働き、遺伝子から翻訳して、有機体が機能するのに必要なタンパク質を作るが、その他にも細胞が生成するたんぱく質の種類や量を制御するタイプのRNAがある。最近まで、細胞がRNAを作ると、ほとんどの場合RNAはその細胞の中で働くものと信じられていた。しかし、最近の研究で、細胞がRNAをexRNAの形で放出し、そのexRNAが体液を通して移動し、他の細胞に影響を与えることが突き止められており、exRNAは信号分子として機能し、他の細胞と情報交換し、全身を通して細胞から細胞に情報を伝達することができる。
そのため、研究者は、一部のexRNAをバイオマーカーまたは疾患の有無や段階の指標として利用できるのではないかと考えており、このようなバイオマーカーで、疾患を詳しく理解し、初期の段階で効果的に診断できるようになる可能性があり、さらには、exRNAを使って疾患の分子療法開発もできるのではないかと期待している。
NIH Common Fund を監督するDivision of Program Coordination, Planning, and Strategic Initiatives 部長のJames Anderson, M.D., Ph.D.は、「exRNAは、広範な種類の疾患の診断と治療の発展にとって膨大な可能性を秘めており、その可能性を引き出すためには何よりもまず、exRNAのタイプを分類し、細胞がexRNAを生成し、放出する過程を究明し、さらにexRNAが体内を移動し、特定の細胞を標的にして変化させる仕組みを突き止め、特定量、特定タイプのexRNAが疾患を変化させる機序を理解することが先決だ。可能性の広がるこの研究分野が助成金を受けたことで、exRNAの情報伝達活動に対する世界の研究者の理解が深まり、生体医学分野の研究がさらに進むことだろう」と述べている。
この分野では学際的な研究者チームがいくつかの重要な科学分野で研究プロジェクトを展開することになっており、NCATSが18件の助成金を運営し、研究者は、この助成金を通して、exRNAからバイオマーカーを開発し、exRNAを治療に役立てるこれまで未開拓の分野を切り開く。
また、NCIは5件のプロジェクトを監督することになっており、各プロジェクトが、細胞がexRNAを生成し、放出する過程の解明 (生合成)、exRNAが体液中を移動して他の細胞に到達する過程の解明 (biodistribution)、体液中を移動するexRNAを細胞が捕捉する過程の解明 (獲得)、exRNAが細胞の機能を変化させる機序の解明 (エフェクター機能) を研究する計画になっている。
NIDAは、各プロジェクトが作成するデータをすべて保管するData Management and Resource Repositoryを設立するプロジェクトもサポートする。その中にはexRNA研究基準、プロトコール、データ、ツール、技術などをすべての研究者に開放する公共ExRNA Atlasウエブサイトも含まれている。これらのプロジェクトで研究する科学者は、研究協力し、情報を共有し、得られた知識を広く科学界や一般社会に広めるため、ExRNA Consortiumを結成する計画になっている。
NCATS DirectorのChristopher P. Austin, M.D.は、「NCATSは、人類の健康改善の触媒となる新しい技術を開発し、実証し、広めている。今回の助成金はその使命の典型となるもので、新しい科学分野を深く掘り下げ、介入、診断、バイオマーカー、治療の分野で新しいターゲットを見つけることを目的としている。いずれも発見から健康改善までの過程を迅速化することになる」と述べている。この24件の助成金交付は、大きな成果を目指す協力協定である。
個々のプロジェクトは最高5年間の支援を受けるが、Data Management and Resource Repositoryプロジェクトだけは5年を超える支援を受けることもありえる。各研究プロジェクトに関する資料は次のウエブサイトまで。
また、今年末までにはNIHがexRNA参考プロファイル開発参加要請を発表する計画になっており、このプロファイルは、健康な人体の各種体液から発見されたexRNAのタイプをカタログ化することを目指している。NHLBIがこの作業を主導し、疾患を持った患者のexRNAプロファイルと健康な人のexRNAプロファイルとの相違の研究を支援する。Extracellular RNA Communicationプログラムに関する詳しい資料は次のウエブサイトまで。また、関連情報は、 (International Society of Extracellular Vesicles) にも掲載されており、細胞外でRNAを運搬する小胞のエキソソームに関する資料なども掲載されている。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:NIH Targets $17 Million to Study of Extracellular RNA and Cell-Cell Communication



