シンクロトロン光線でRNA二重らせん構造解明

シンクロトロン光線でRNA二重らせん構造解明

1953年にフランシス・クリックとジェームズ・ワトソンがデオキシリボ核酸 (DNA) の二重らせん構造を発見した事が遺伝子工学の革命をもたらし、生命体を構成する単位をマップ化し、研究し、シーケンス化する始まりとなった。DNAは、世代間を継承される遺伝物質をエンコードしている。DNAにエンコードされた情報が、生命に必須のタンパク質や酵素として作り出されるためには、細胞のリボソームの中にある一本鎖遺伝物質のリボ核酸 (RNA) が仲介として機能しなければならない。RNAは通常一本鎖であるが、一部のRNA塩基配列はDNAのように二重らせん構造を作ることができる。

 


1961年には、アレクサンダー・リッチ、デビッド・デービーズ、ワトソン、クリックらが、「ポリ(rA) として知られるポリアデニル化RNAは、並列鎖二重らせん構造を形成することができる」との仮説を立てた。それから50年を経て、McGill Universityの研究者達は、短いRNA配列のポリ (rA)11の結晶化に成功し、Canadian Light Source (CLS) と、Cornell High Energy Synchrotronで集めたデータを用い、ポリ (rA) 二重らせんの仮説を実証した。ポリ (rA)11の詳細な立体構造は、McGill Biochemistry教授のDr. Kalle Gehringの研究室が、University of GottingenのDr. George Sheldrick、Concordia UniversityのDr. Christopher Wildsらとの共同研究で発表している。Dr. WildsとDr. Gehringは、ケベックの構造生物学協会GRASPのメンバーである。研究論文は、2013年6月27日付の学術誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

McGill Bionanomachinesトレーニング・プログラムを指導するDr. Gehringは、「50年続いた研究であり、新しい核酸構造を同定することはきわめてまれになっている。だから、ポリ (rA) の見慣れない結晶を発見した時にはみんなが飛びついた」と述べている。さらに、「二重らせんRNAを見つけることは、生物学的なナノ物質、超分子化学の分野の研究で面白い展開の可能性があるのではないか」と述べている。核酸は自己認識という驚くような特性を持っており、その特性を使って物質を造ることができれば、合成生物学的を利用したナノスケールの装置であるバイオナノマシンを製作する可能性も生まれてくる。Dr. Gehringは、「バイオナノマシンは、極端に小さく、生産コストも低く、改造が簡単だという様々な利点があり、現実に、酵素、感覚器、医用生体材料、医療など私たちの日常の生活にも大きな影響を持っている」と述べている。さらに、「RNA二重らせんが実証されれば、AIDSなどの疾患の治療やあるいは治癒に大いに貢献するだけでなく、生物組織の再生を助けるなど幅広い裾野が広がっている。私たちの研究で、ポリ (rA) 構造が見つかったことで基礎研究の重要性が再認識されている。私たちは、細胞がmRNAからタンパク質を造る、その機序を探ろうとしたが、結果として、超分子化学の長年の疑問を解決する答を見つける結果になった」と述べている。

Dr. Gehringと研究チームは、実験的にCLS Canadian Macromolecular Crystallography Facility (CMCF) で得たデータを分析したところ、見事にポリ (rA)11 RNAの構造を解明することができた。CMCFの研究者、Dr. Michel Fodjeは、その実験が大成功でRNAの構造を突き止めたばかりか、細胞内で遺伝情報がどのように保存されているかを知るカギになるかも知れないとしており、「DNAもRNAもいずれも遺伝情報を持っているが、この二つの間にはいくつか大きな違いがある。mRNAはポリ (rA) の尾を持っており、それが化学的には結晶中の分子とまったく同じだ。ポリ (rA) 構造は生理学的に重要であることもあり、局部的にmRNAの濃度が高くなる場合には特に重要になる。細胞がストレスを受け、mRNAが細胞内で顆粒状の塊になった時などがそれだ」と述べている。このような情報を手にして、研究チームは、RNAの様々な構造、新しいバイオナノマシンの設計においてその構造の果たす役割、また、ストレスを受けている細胞内での役割などを詳しく記録し続けていく。サスカトゥーンのUniversity of SaskatchewanにあるCanadian Light Sourceは、カナダ国立のシンクロトロン研究センターである。画像は、橙/黄、緑/青の2つの鎖が構成するポリ (rA) 二重構造を示しており、黒い球は構造を安定化させるためのアンモニウム・イオン。(画像提供: Kathryn Janzen, Canadian Light Source)。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:RNA Double Helix Structure Identified Using Synchrotron Light

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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