胚盤胞を模した新構造は、ヒトの初期発生の研究に役立つとUTSWの研究者がNature誌に発表
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テキサス大学サウスウエスタン校(UTSW)の研究チームは、哺乳類の受精卵が初期に発生してできる胚盤胞に似た生物学的構造を生成した。研究チームは、研究のために提供された胚から得られたヒト胚性幹細胞と、成人の細胞から生成されたヒト誘導多能性幹細胞(総称してヒト多能性幹細胞と呼ぶ)を用いて、この研究を行った。この研究成果は、2021年3月17日にNature誌のオンライン版に掲載され、ヒトの初期発生、妊娠損失、および発達障害の研究に新たな方法を提供する可能性がある。
このNature誌の論文は「ヒト多能性幹細胞から生成された胚盤胞様構造体(Blastocyst-like structures generated from human pluripotent stem cell)」と題されている。
UTSW大学分子生物学助教授のJun Wu 博士 は、「胚盤胞に似た形態をしているが、胚盤胞のような構造物は胎児にまで成長することはない」と述べている。「胚盤胞の発生に関する体外の生物学的モデルを持つことは、ヒトの胚に頼らずにヒトの発生を理解するためのギャップを埋めるために非常に重要だ」とWu博士は語った。ヒトの多能性幹細胞(発生の初期段階にある細胞)は、体のさまざまな組織のほとんどすべてになる可能性を秘めている。しかし、この細胞が胚盤胞(受胎後約5日目に形成され、子宮壁に着床する中空のボール状の初期胚)に成長するために、どのような分子シグナルが重要なのかは分かっていなかった。胚盤胞の研究には、これまで不妊治療で廃棄・提供された胚が用いられてきたが、これは倫理的に問題のある希少な資源だ。胚盤胞には、エピブラスト、ハイポブラスト、トロフォブラストという3種類の主な細胞が含まれている。エピブラストは胚性幹細胞の代表格であり、さまざまな成熟組織を形成するとWu博士は説明する。そのため、研究者らは長い間、エピブラストの細胞株を研究用に維持してきた。最近の研究では、エピブラストに適切な遺伝子の組み合わせを活性化する化学物質を作用させることで、エピブラストが胚芽細胞や栄養細胞に成長することが分ってきた。
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