「爆発するキュウリ」の謎がついに解明—オックスフォード大学の研究が明かす種子散布の巧妙なメカニズム

オックスフォード大学の研究チームが、科学者たちを何世紀にもわたり悩ませてきた謎を解明しました。それは、「爆発キュウリ(squirting cucumber)」ことEcballium elateriumが、どのようにして種子を遠くに飛ばすのかという疑問です。この研究成果は、2024年11月25日にProceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)誌に掲載されました。論文タイトルは「Uncovering the Mechanical Secrets of the Squirting Cucumber(爆発するキュウリの機械的秘密の解明)」です。

 「爆発するキュウリ」とは?

Ecballium elaterium(エクバリウム・エラテリウム)はウリ科(Cucurbitaceae)に属する植物で、メロン、カボチャ、ズッキーニなどと近縁ですが、その種子散布方法は極めて特異です。

この植物の果実は熟すと茎から外れ、内部の粘液に包まれた種子を高圧のジェット噴射で弾き飛ばす仕組みを持っています。

種子の発射速度:約20m/s

種子が到達する距離:果実の長さの最大250倍(約10m)

散布時間:わずか30ミリ秒

古代ギリシャ・ローマ時代から知られていたこの現象は、プラウィニウス(Pliny the Elder, AD 23/24–AD 79)によっても記録されており、「このキュウリは未熟なうちに切らないと、種子が飛び散り、目を傷つける可能性がある」と述べられています。

 しかし、この種子散布の詳細なメカニズムは長年解明されていませんでした。

 

最新技術を駆使した研究—種子散布の秘密を解明

 本研究では、オックスフォード大学およびマンチェスター大学の研究者たちが、高速度カメラ、画像解析、CTスキャン、数学的モデリングを駆使して、この現象を科学的に分析しました。

実験は、オックスフォード大学植物園(Oxford Botanic Garden)で栽培されたEcballium elateriumを対象に行われました。

 

研究チームが発見した主要なメカニズム

圧力システム

 種子散布の数週間前から、果実内部に粘液が蓄積し、高圧状態になる。

 

液体の再分配

散布直前に、一部の粘液が果実から茎に移動し、茎が長く、太く、硬くなる。

これにより、果実はほぼ垂直の状態から45度の角度へと回転。これは、種子を最適な角度で発射するために重要。

 

急速な反動(リコイル)

種子放出の最初の数百マイクロ秒で、茎の先端が反動し、果実が反対方向に回転。

 

可変的な種子の発射 

最初に発射された種子ほど遠くへ飛び、後の種子は近くに落下する。

この結果、母植物の周囲2〜10mの範囲に種子が均等に分布。

このように、粘液の移動が果実の角度を調整し、種子を広範囲に散布するのに役立っていることが判明しました。

また、この液体の再分配システムは植物界では極めて珍しいものであることも明らかになりました。

 

数学的モデルで明らかになった進化の最適化 

研究チームは、数学モデルを用いて異なる条件下での種子発射をシミュレーションしました。

茎をより太く・硬くすると、果実の回転が少なくなり、種子が水平方向に発射されすぎる→結果、種子が狭い範囲に集中し、競争が激化

粘液の移動を減らすと、果実が過度に加圧され、種子が垂直に近い角度で発射→結果、母植物の近くに落ちすぎ、生存率が低下

この分析により、現在の散布メカニズムが、種子を最適な範囲に分布させるよう進化してきたことが示されました。

 

研究の意義—生物学と工学への応用

オックスフォード大学植物園 副所長 兼 科学部門責任者のクリス・ソログッド博士(Dr. Chris Thorogood)は次のように述べています。

「何世紀にもわたり、この不思議な植物がなぜ、どのようにして種子を飛ばすのかという疑問が持たれてきました。今回、私たちはついにその謎を解き始めたのです。」

 また、数学モデルを開発したオックスフォード大学数学研究所(Oxford Mathematical Institute)のデレク・モルトン教授(Dr. Derek Moulton)は、

「最初に植物園でこの現象を目撃したとき、種子の発射があまりに速すぎて、何が起こったのか分かりませんでした。解明できて非常に興奮しています。」とコメントしています。

さらに、本研究の共同著者であるマンチェスター大学(University of Manchester)のフィン・ボックス博士(Dr. Finn Box)は、

「この研究は、生物模倣工学(bio-inspired engineering)や材料科学(material science)への応用が期待されます。たとえば、精密なナノ粒子の放出が必要なドラッグデリバリーシステムに役立つ可能性があります。」と述べています。

 

まとめ 

爆発キュウリ(Ecballium elaterium)の種子散布のメカニズムが解明。

高速度カメラ・CTスキャン・数学モデリングを活用し、圧力調節と液体移動が重要な役割を果たすことを発見。

現在の散布方法が最適化されていることが数学モデルで証明。

バイオミメティクス(生物模倣技術)として工学や医療分野への応用可能性。

この研究は、植物の種子散布の進化の理解を深めるとともに、未来の工学的応用にもつながる画期的な成果となりました。

 

画像:The squirting cucumber, Ecballium elaterium. (Credit: Derek Moulton)

[News release] [PNAS article]

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