木材形成の鍵を握るミトコンドリア—ポプラの木部発達を制御する新たなタンパク質PtoRFL30を発見

木材の形成は単なる細胞の成長過程ではなく、多様な細胞系統が緻密に連携する「生物学的交響曲」ともいえる複雑なプロセスです。植物の成長におけるミトコンドリアの役割は、これまで主に「細胞のエネルギー工場」として知られてきましたが、その機能が二次成長、すなわち木材形成にどのように関与しているのかは未解明の部分が多く残されていました。特に、木質部(木部)を構成する維管形成層の発達におけるミトコンドリアの働きは、大きな謎とされてきました。

 こうした未解決の疑問に挑むべく、研究者らはミトコンドリアの活動と樹木の維管束発達との関連を解明する研究に着手しました。その結果、新たなタンパク質 PtoRFL30 がポプラ(Populus tomentosa)の木部形成において中心的な役割を果たしていることが明らかになりました。本研究は、アメリカ・サウスウエスト大学(Southwest University, Texas)の科学者らによって主導され、2024年7月15日 に学術誌『Horticulture Research』に発表されました(DOI: 10.1093/hr/uhae188)。論文のタイトルは「Restorer of fertility like 30, Encoding a Mitochondrion-Localized Pentatricopeptide Repeat Protein, Regulates Wood Formation in Poplar(ミトコンドリア局在型ペンタトリコペプチドリピートタンパク質PtoRFL30はポプラの木材形成を制御する)」です。

 

ミトコンドリアとオーキシンの相互作用が木材形成を左右する 

本研究において、PtoRFL30は ミトコンドリアに局在する ことで木部の発達を制御するタンパク質であることが明らかになりました。具体的には、このタンパク質は ミトコンドリアの恒常性を維持 しながら、植物ホルモンである オーキシン(auxin) のシグナル伝達に影響を与えます。

研究チームが行った遺伝子発現操作の結果、PtoRFL30を過剰発現させたポプラでは、維管形成層の活動が抑制され、木部の成長も鈍化 することが観察されました。一方で、PtoRFL30の発現を抑制すると、木部の発達が促進 されることが確認されました。さらに、ミトコンドリアのエネルギー生産や活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)の制御を介してオーキシンのシグナルが調節されていることが示唆されました。

興味深いことに、ミトコンドリアの阻害剤やオーキシン調節化合物を用いた処理によって、これらの影響を可逆的に操作できる ことも分かりました。これは、PtoRFL30が ミトコンドリアの状態を介して木材形成をダイナミックに制御する ことを示しており、樹木の成長プロセスを分子レベルで制御する新たな手がかりとなります。

 

木材生産や森林管理への応用可能性

本研究のシニア著者の一人である ケミン・ルオ博士(Keming Luo, PhD) は、本成果について次のように語っています。

「本研究は、ミトコンドリアが樹木の成長において果たす重要な役割を明らかにし、オルガネラのシグナルが維管束の発達をどのように制御するかを示しました。この発見は植物生物学の理解を前進させるだけでなく、木材形成を制御する新たな手法を提供し、林業の実践にも影響を与える可能性があります。」

今回の研究で明らかになった PtoRFL30の機能を活用することで、木材の生産量を最適化できる可能性がある ことが示されました。これは、木材や紙産業のための樹木育種に役立つだけでなく、森林の持続可能な管理にも寄与する 可能性があります。さらに、この知見を活用することで、干ばつや害虫といった環境ストレスに強い樹木の育成 も可能になるかもしれません。

森林の管理や木材生産の最適化に向けた新たなアプローチとして、本研究の知見は今後の林業や生態系保全に大きな貢献をもたらすことが期待されます。

 

[News release] [Horticulture Research article]

 

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