遺伝性高コレステロール血症の将来的な治療法に向けた研究
高コレステロール血症の原因となる遺伝子変異を修正するため、最新のゲノム編集技術「TnpB」を活用する研究が進展しました。この技術は従来のCRISPR-Casシステムを超える効率性と適応力を持ち、動物実験で80%近いコレステロール低下が確認されています。
CRISPR-Casシステムの進化と背景
CRISPR-Casシステムは、元々細菌がウイルス感染に対抗するために進化させた防御機構です。この「遺伝子ハサミ」は、特定のDNA配列を正確に編集できる能力を持ち、過去10年間で医学と科学に革命をもたらしました。
小型化されたゲノム編集ツールの可能性
今回の研究では、従来のCasタンパク質より小型であるTnpBタンパク質に注目。チューリッヒ大学(University of Zurich, UZH)のジェラルド・シュヴァンク博士(Gerald Schwank PhD)率いる研究チームは、効率性を4.4倍向上させた改良型TnpBを開発しました。この進化により、小型であるがゆえに従来のCasシステムよりも体内での輸送が容易になります。
研究で使用されたTnpBは、極限環境に適応する細菌デイノコッカス・ラジオデュランス由来のものです。この菌は放射線や真空などに耐性を持つことで知られています。しかしながら、これまでのTnpBは効率性が低く、標的DNAへの結合能力が限られていました。
改良型TnpBの特性とAIによる予測モデル
シュヴァンク博士の研究チームは、TnpBを核へ効率的に輸送し、より幅広いDNA配列を標的とできるように改良しました。また、10,211箇所の標的サイトで編集効率を検証し、AIモデルを開発。これにより、TnpBが特定の状況でどの程度効率的に機能するかを予測できるようになり、マウス肝臓で75.3%、脳で65.9%の効率を実現しました。
動物実験と高コレステロール症治療の可能性
研究では、臨床適応可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、TnpBをマウスの細胞に効率的に導入しました。この技術により、CRISPR-Cas9システムでは複数のウイルス粒子が必要だったのに対し、単一粒子で実現可能です。
特に、家族性高コレステロール血症(FH)という遺伝病の治療に焦点が当てられました。この病気は世界で約3100万人に影響を与え、早期の動脈硬化性心血管疾患のリスクを高めます。マウス実験では、コレステロールレベルを制御する遺伝子を編集し、血中コレステロール値を80%近く削減する成果を得ました。
論文情報
この研究は2024年9月23日付でNature Methodsに掲載されました。論文タイトルは以下の通りです: 「Effective Genome Editing with an Enhanced ISDra2 TnpB System and Deep Learning-Predicted ωRNAs(強化型ISDra2 TnpBシステムと深層学習予測ωRNAを用いた効率的なゲノム編集)」。
画像:ゲロルド・シャンクの研究室では、チューリッヒ大学の研究者たちが、タンパク質工学とAIモデルを用いて、TnpBタンパク質をゲノム編集により効果的に利用できるようにした。(Credit:Christian Reichenbach)



