過去最大級のゲノム全体にわたる研究で、5種の主要精神障害がごく一般的な同様の遺伝子的変異にまで遡ることが突き止められた。資金の一部をNational Institutes of Healthが出しているこの研究では、重なり合う部分は統合失調症と双極性障害で最高を示し、双極性障害と抑鬱症、ADHDと抑鬱症で中程度、統合失調症と自閉症では低度という結果が出た。
また全体として、共通する遺伝子的変異による各精神障害のリスクは17%から28%程度であると見積もられた。オーストラリア連邦クイーンズランド州ブリスベンのUniversity of QueenslandのNaomi Wray, Ph.D.は、「私たちの研究は共通する遺伝子的変異だけに限ったので、精神障害間の重なり合う遺伝子的変異全体を見ればもっと大きくなると思う。もっと影響の小さい共通遺伝子変異、ごくまれな変異、突然変異、重複、欠失、遺伝子・環境相互作用などもこれらの精神障害の原因になりえる」と述べている。
NIHのNational Institute of Mental Health (NIMH) の後援で、Cross Disorders Group of the Psychiatric Genomics Consortium (PGC) が複数の研究室で実施したこの研究に、Naomi Wray, Ph.D.は共同で指導に携わった。バージニア州リッチモンド所在Virginia Commonwealth UniversityのDr. Wray, Kenneth Kendler, M.D.、マサチューセッツ州ボストン所在Massachusetts General HospitalのJordan Smoller, M.D.その他のPGCグループのメンバーの研究論文が、2013年8月11日付Nature Geneticsオンライン版に掲載されている。
Bruce Cuthbert, Ph.D.はNIMH Division of Adult Translational Research and Treatment Development部長であり、精神障害を根本的な原因によって体系的に分類し、研究に役立てようとするInstitute's Research Domain Criteria (RDoC) プロジェクトのコーディネータも務めている。彼は、「これまで別個に扱われていた精神疾患の間で共通する遺伝的リスク要因を定量的に解明した証拠が出てきたことは、自然に忠実な分類体形を目指して研究を続けている私たちにとっても大いに助けになる」と述べている。今年初め、20か国の80か所の研究センターに所属する300人を超える研究者の参加するPGC研究チームは、5種の精神障害すべてが互いに遺伝的リスク要因が共通しているとの研究論文を発表した。
精神障害患者は、染色体の特定の4か所に変異が疑われる可能性が高い。ただし、どの程度共通しているかということは未だにはっきりしていない。この新研究では、研究者は同じゲノム全体の情報と現在知られている限りの最大のセットのデータを利用し、染色体全体にわたる何十万という部位の遺伝子コードの一般的な変異性を原因とする精神疾患のリスクを推定した。そのために、研究チームは、数千人の同じ精神障害を持つ人々の遺伝子的変異の共通性を対照グループと比較し、5種の精神障害の各組み合わせ2種が共通の遺伝子的変異を持つ度合いを計算した。その結果、統合失調症と双極性障害では共通する遺伝子的変異に帰因する疾患遺伝率の重なり合いは15%程度、双極性障害と抑鬱症では10%程度、統合失調症と抑鬱症では9%程度、統合失調症と自閉症では3%程度となった。
研究チームは、「最近、統合失調症と抑鬱症とを関係づける分子遺伝子学的な証拠が発見されており、これが再現性のあるものなら、精神障害診断や研究にも大きな影響が考えられる」と述べている。研究チームは、ADHDと自閉症の間にもっと重なり合いがあると予想していたが、統合失調症と自閉症との間にはごくわずかな関連しかないというのは最近明らかになってきた証拠と一致している。研究結果では、この5種の主要精神障害の原因となる共通する遺伝子的変異に帰因する疾患遺伝率の重要性を文書化し、分子的証拠に番号を付した。それでも、精神疾患の遺伝子的な要因を受け継いでいると考えられる部分にまだまだ説明のつかないところがあり、まして遺伝子的な要因を受け継いでいない部分についてはまったく解明できていない。たとえば、共通する遺伝子変異が統合失調症の原因になっていると考えられるのは23%程度とされているが、双生児や家族の間の統合失調症研究では、同障害の遺伝率は合計81%にもなる。同じように、双極性障害では双方の隔たりは25%対75%、ADHDでは28%対75%、自閉症では14%対80%、抑鬱症では21%対37%となっている。
リスクに影響することが知られていながら、この研究で検出できなかった遺伝タイプとしては、一般的な遺伝子変異の部位とは無関係に起きるごくまれな変異によるものがある。ただし、研究チームは、「サンプル規模が大きくなればそれに伴って統計的検出力も大きくなり、影響の小さい疾患関連の一般的な変異がもっと見つかるようになることは研究結果からも明らかだ」と述べている。このプロジェクトに出資したNIMH Genomics Research Branch の部長、Thomas Lehner, Ph.D.は、「精神障害の遺伝的要因の推定が、過去の家族や双生児を対象にした研究とほぼ同じ傾向を示していることは心強いことだ。この研究でも精神障害に関わる遺伝子を発見する将来的方向性が示されている」と述べている。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Genome Study Assesses Genetic Overlaps Between Major Mental Disorders



