ドナー由来セルフリーDNAの測定で臓器移植の結果観察を改善。拒絶反応の早期発見と抗拒絶反応治療の進捗を監視。

ドナー由来セルフリーDNAの測定で臓器移植の結果観察を改善。拒絶反応の早期発見と抗拒絶反応治療の進捗を監視。

実質臓器移植を受けた患者は生涯免疫抑制療法を続けなければならない。薬剤療法が不十分なために移植拒絶反応が起きるリスクは、過剰な免疫抑制が原因で感染やがんを引き起こすリスクとのバランスが問題になる。移植レシピエントの予後、特に能動的傷害や拒絶反応の早期発見を監視する非侵襲性診断ツールには膨大なニーズがあるがまだ十分に満たされていない。



2016年10月7日付The Journal of Molecular Diagnosticsオンライン版に掲載された研究論文は、血漿中のドナー由来セルフリーDNA (dd-cfDNA) を測定する臨床グレード非侵襲性検査の検証を報告している。これが成功すれば合併症や拒絶反応を減らし、移植レシピエントの予後を改善することもできるようになる。

この論文はJournal of Molecular Diagnosticsのオープンアクセス論文として掲載されており、「Validation of a Clinical-Grade Assay to Measure Donor-Derived Cell-Free DNA in Solid Organ Transplant Recipients (実質臓器移植レシピエントのドナー由来セルフリーDNA測定臨床グレード・アッセイの検証)」と題されている。


この研究の研究責任者でCareDx, Inc. (Brisbane, California), R&D Associate DirectorのMarica Grskovic, Ph.D.は、「dd-cfDNAは移植臓器損傷のバイオマーカーとして認識され始めており、移植患者の予後改善に向けて、このバイオマーカーを発展させるためにも、臨床グレードの分析的検証済みアッセイの存在は重要である」と述べている。血漿cfDNAは産前検査、がん、臓器移植の検査でのバイオマーカーとして提案されている。臓器移植後の検査では、心臓、肺、肝臓、腎臓その他の臓器の種類を問わず、移植臓器の健康状態を監視する手段として、移植臓器のドナーとレシピエントの遺伝子の違いを利用し、レシピエントの血漿、血清、尿などの試料中のドナー由来DNAのレベルを測定するテクニックが開発されてきた。

研究用dd-cfDNAアッセイについてはこれまでに述べられているが、この研究は臨床グレード・アッセイに関して初めての報告となった。この新アッセイは、移植患者の試料に含まれる範囲の血漿dd-cfDNAを検出することができる。新しい次世代シーケンシング (NGS) ベースの増幅アッセイの利点は、作業にかなりの時間と経費、サンプル組織などを必要とするドナーとレシピエントの遺伝子型の判定が不要になっていることである。組織生検も移植臓器を観察する手段の一つではあるが、これは侵襲的であり、時間も経費もかかる上にリスクも大きい。この新しいアッセイの検査は3日以内に完了し、早く治療法を決めなければならない臨床では重要な利点である。現在の研究報告では、複数の機関の心臓移植研究から集められたデータで、急性拒絶反応を起こした患者の場合、急性拒絶反応のない安定した移植患者に比べると、dd-cfDNAが平均して3倍の高さになるとしている。また、抗拒絶反応治療が成功した例ではdd-cfDNAのレベルが下がることも観察された。

NHLBI (National Heart, Lung, and Blood Institute) の主任研究員とNIHのChief Officer for Scientific Workforce Diversityを兼任するHannah Valantine, M.D.は、「StanfordのDr. Stephen Quake、Dr. Kiran Khush、Dr. Iwijn De Vlaminckら同僚との共同研究で、心肺移植に関してNGSを用いた先駆的な研究を行った。この技術が、臨床グレードのアッセイに翻訳され、患者管理の精度を向上できるようになるのはうれしいことだ」と語っている。Dr. Valentineは、この報告の研究には関わっていない。研究チームは、このアッセイが他のタイプの移植臓器の観察にも有効になることと期待している。さらにこのアッセイの臨床的有効性と有用性を評価するため、複数の研究センターで心臓と腎臓の移植患者について、観察研究が進められている。

このアッセイは現在のところ単一臓器ドナー/レシピエントの組み合わせについてのみ認証されている。Dr. Grskovicは、「これらの結果から、cfDNAを利用して拒絶反応を検知するだけでなく、治療に対する反応を観察することにも期待が持てることを示している。cfDNAを継続測定することで、医師は、個別化治療を向上し、免疫抑制剤投与を調節し、臓器移植患者の長期的な予後の改善を図ることができる」と述べている。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Non-Invasive Assay Measuring Donor-Derived Cell-Free DNA (dd-cfDNA) Levels May Improve Surveillance of Heart & Other Solid-Organ Transplants; Assay Could Enable Early Detection of Rejection & Monitoring of Anti-Rejection Treatment Progress

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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