タモキシフェン耐性乳がんの新たな治療法
オハイオ大学総合がんセンター・アーサー・G・ジェームスがん病院&リチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究チームが、タモキシフェン耐性乳がん細胞がどのように成長し増殖するのかを突き止めた。更には、タモキシフェン耐性乳がんを標的として治療する新たな治験薬も開発された。最初のドアが閉まってから次のドアが開くように、エストロゲンホルモンが活性化させる経路をタモキシフェンが阻害した後に、ヘッジホグ(Hhg)と呼ばれているシグナル経路が、乳がん細胞の成長を促進するのである。
PI3K/AKTと呼ばれる2つ目の信号経路も関与しており、Hhgシグナル経路によってタモキシフェンの治療効果は減退し、がん細胞は成長を再開し悪化していくのだ。研究では300例以上のヒト腫瘍組織の解析が行われ、Hhgシグナル経路が活性化すると、予後の悪化につながる事が明らかになった。研究チームは最終的にビスモデギブという名の治験薬まで作成することに成功し、これはHhg経路をブロックしタモキシフェン耐性乳がんの成長を阻害することが、動物モデルで証明されている。この治験薬は現在、別のタイプのがんの治療薬として臨床試験が行われている。
現在では、ホルモン耐性乳がんの治療には化学療法が採用されているが、この方法は強い副作用を有する。本研究は、おおくの耐性がんの治療において、化学療法に代わるものとして標的治療の道を開くものである。この研究はCancer Research誌の2012年8月8日号のオンライン版に発表され、「私たちの研究は、タモキシフェン治療の効果が無くなった、エストロゲン陽性乳がん患者のシグナル経路を標的にできる事を示唆しています。」と語るのは、主著でありOSUCCC-Jamesにおいて乳がんの専門医を務める、ブバネスワリ・ラマスワミー博士である。「私たちは、タモキシフェン耐性を誘発するヘッジホグ経路と、PI3K/AKT経路との関連を明らかにしました。ヘッジホグ経路だけを或いは、PI3K/AKT経路と組み合わせて標的とするかは、実際にタモキシフェン耐性乳がんを治療する場合の選択肢となります。」と説明するのは、OSUCCC-Jamesの分子生物学及び細胞生物学の准教であり本研究の研究責任者であるサーミラ・マジュンダー博士である。
オハイオ州立大学で内科学の准教を務めるラマスワミー博士が強調するのは、これらの患者には新たな治療の選択肢が必要である事だ。「ヘッジホグとPI3K両方の阻害剤を用いる組み合わせは、内分泌耐性腫瘍の治療法として、将来的に化学療法を用いない新しい道を開くでしょう。そして、私たちが開発したこれらの薬剤は、全てそれぞれが別の種類のがんの治療薬として臨床試験が実施されています。」と同博士は説明する。
アメリカでは2012年度、新たに23万人の乳がん患者が発生し、4万人が乳がんによって死亡している。乳がん患者の3分の2以上が高いエストロゲン受容体陽性(ER)を示す。これらのER陽性乳がんの治療のためにタモキシフェンが使用され、ラマスワミー博士が指摘するのは、タモキシフェンが改良されてきたおかげで、ER陽性乳がん患者の無病生存期間が50%に達した事である。「とは言っても、タモキシフェンを服用する患者の30-40%は、凡そ5年後にタモキシフェン耐性になってしまいます。」と同博士は指摘する。
現在、これらの患者の治療法は非常に限られており、結局は化学療法を採用することになる。本研究で明らかにされたのは、重要な3つのポイント、即ち、1.タモキシフェン耐性乳がんがその細胞増殖をHhg経路に依存する事、2.PI3K/AKY経路がHhgシグナルタンパクをダメージングから防護する結果、Hhg経路を活性化させる事、3.315例の浸潤性乳がんの解析によって、Hhgの重要なマーカーであるGLI1タンパクのレベルが昂進している事---が、無病生存期間と全生存期間の著しい低下に関与している事である。「私たちの次の課題は、タモキシフェン耐性乳がん患者に、ビスモデギブの有効性を確認するための臨床試験を実施する事です。」とラマスワミー博士は語る。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Possible Therapy for Tamoxifen-Resistant Breast Cancer Identified
生命科学雑誌バイオクイックニュース: 2024年9月号
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