敗血症患者の臓器不全診断におけるエクソソームの可能性
敗血症患者において、臓器不全の発生源や位置を特定することは、損傷組織に特異的なバイオマーカーの欠如により困難でした。中国・西京病院の研究者らは、敗血症患者から分離されたエクソソームに関する論文をレビューし、この微小小胞が敗血症関連の臓器不全を早期に検出するための有望な研究対象であると結論付けました。本研究の成果は、2024年11月28日付で『Journal of Translational Medicine』に掲載されました。論文タイトルは「Exosomes As Novel Biomarkers in Sepsis and Sepsis Related Organ Failure(敗血症および敗血症関連臓器不全における新規バイオマーカーとしてのエクソソーム)」です。エクソソームは、健常細胞および損傷細胞の両方から放出される脂質膜小胞であり、放出元細胞の生物学的状態を反映したマクロ分子を運搬しています。
敗血症と臓器不全の深刻な影響
敗血症は、感染に対する制御不能な免疫応答によって引き起こされる生命を脅かす疾患です。米国では年間170万人が敗血症を発症し、少なくとも35万人が死亡しています。敗血症は複数の臓器系に影響を及ぼしますが、特に肺、腎臓、心臓、脳、肝臓に対する影響が深刻です。さらに、敗血症が進行し敗血症性ショックと呼ばれる段階に至ると、臓器不全が発生し、死亡リスクが著しく高まります。
臓器不全の診断の課題
単純な敗血症の診断には、高額な臨床検査、血液検査、画像診断が必要であり、臓器不全の進行に対して検査結果が得られるまでに時間がかかることが課題です。また、炎症を示すサイトカインや組織損傷に関連するバイオマーカーの測定は、一定の診断的価値を持つものの、時間がかかり、費用が高く、臓器特異性に欠けるという問題があります。
研究チームは論文の中で次のように述べています。
「現在、単一のバイオマーカーのみで敗血症を正確に診断することは困難です。しかし、複数のバイオマーカーと敗血症スコアを組み合わせることで、診断および予後の精度を向上させることが可能です。しかし、敗血症による多臓器機能不全症候群(MODS)を早期に特定するための特異的なマーカーは、いまだに不足しています。」
研究チームの発見
西京病院の研究チームがエクソソームに注目したのは、自らの実験結果ではなく、敗血症患者由来のエクソソームが損傷特異的なバイオマーカーを含んでいることを示す既存の研究報告に基づいていました。
彼らの調査では、敗血症や急性敗血症に関連する多くのタンパク質バイオマーカーが報告されていました。その中でも特に注目すべきなのは、敗血症性脳や、急性肺障害および急性腎障害を示唆するバイオマーカーの変化を報告した研究です。
さらに、研究チームは腎臓、肺、中枢神経系の損傷に関連するマイクロRNAを含むエクソソームの報告も数多く確認しました。また、敗血症性心筋症に関連する3種類のバイオマーカーについても文献で言及されていました。
加えて、心臓、腎臓、肺、脳の損傷と関連する長鎖ノンコーディングRNA(long non-coding RNA, lncRNA)や環状RNA(circular RNA, circRNA)の報告も見つかりました。
なぜエクソソームが注目されるのか?
エクソソームは、健常細胞および損傷細胞の両方から放出されるバイオマーカーを豊富に含
む微小小胞であり、多くの疾患の診断における革新的なツールとして注目されています。体液から容易に採取でき、放出元の細胞の状態を反映するバイオマーカーを含んでいるため、診断の可能性が広がっています。
エクソソームは、リン脂質二重膜に包まれた楕円形または球状の微細構造をしており、膜結合分子や細胞質膜由来の分子を含み、放出した細胞の生理状態をそのままカプセル化しています。
また、エクソソームはタンパク質、脂質、核酸などの診断に重要な分子を運搬するだけでなく、唾液、血液、尿、脳脊髄液、さらには固形組織にも広く分布しているため、診断ツールとしての有用性が高まっています。
エクソソームの機能と治療の可能性
エクソソームは、単に疾患のバイオマーカーとして利用できるだけでなく、病態の進行や治癒に直接関与することもあります。
健康な細胞から放出されたエクソソームは、ストレスを受けている細胞へ治療的に有益なタンパク質や核酸を運搬することがあります。
一方で、がんの増殖や転移、血管新生、免疫反応などのプロセスにも関与し、疾患の進行に影響を与えることが報告されています。
さらに、エクソソームは脂質膜に包まれているため、採取・処理・保存の過程で内部の成分が安定しているという利点もあります。これにより、時間経過に伴うバイオマーカーの変化を正確に追跡し、例えば心筋損傷を示すエクソソームが増加した場合に治療を調整するなど、適切な臨床判断を下すことが可能になります。
今後の課題と研究の展望
研究チームは、エクソソームが敗血症に関連する臓器損傷の診断において有望なツールであると結論づけました。しかし、臨床医がエクソソームを診断に活用できるようになるまでには、まだ多くの研究が必要であると強調しています。特に、エクソソームの精製および特性解析の方法を標準化し、高い再現性を確保することが、今後の診断技術の発展において不可欠であると指摘しました。
論文の最後で、研究チームは次のように述べています。
「バイオマーカーの開発と高度なエクソソーム検出技術の組み合わせは、敗血症の診断と管理における革新的な戦略となります。この分野でのさらなる研究と臨床的検証が重要であることを強調したい。」



