深海チョウチンアンコウの驚異的な進化を解明 – 資源の乏しい海で多様化できた理由とは?
深海に生息するチョウチンアンコウは、その奇妙な適応形態で科学者や一般の人々を魅了してきました。ライス大学の研究チームは、この深海魚がどのようにして厳しい環境の中で進化し、多様化したのかを解明しました。この研究成果は、2024年11月27日に Nature Ecology & Evolution に掲載された論文「Reduced Evolutionary Constraint Accompanies Ongoing Radiation in Deep-Sea Anglerfishes(進化的制約の減少が深海チョウチンアンコウの適応放散を促進する)」として発表されました。
進化的挑戦:深海に適応するチョウチンアンコウの驚異
この研究は、ライス大学のコリー・エヴァンズ博士(Kory Evans, PhD)と、元学部生のローズ・フォーシェ氏(Rose Faucher)をはじめとする研究チームによって実施されました。彼らは、チョウチンアンコウがどのようにして海底から深海の開放水域(バチペラジックゾーン)へ移行し、多様な形態を獲得したのかを調査しました。このゾーンは、水深1,000~4,000メートルに及ぶ、極端に資源の乏しい環境です。
研究チームは、遺伝子解析と3Dイメージング技術を駆使して、チョウチンアンコウの進化系統樹を再構築し、適応の鍵となる形態的特性を特定しました。特に、深海に適応したアンコウ類(セラティオイド=Ceratioids)は、かつて海底に生息していた祖先から進化し、巨大な顎、小型の眼、側方に圧縮された体型といった特徴を獲得したことが判明しました。これらの変化は、暗黒の世界で獲物を捕らえるために進化したものです。
意外な発見:環境の制約を超えた形態の多様性
本研究の最も驚くべき発見は、バチペラジックゾーンが進化を制限しなかったことです。研究チームの予想では、この環境は資源が乏しく、生物の形態や進化を大きく制約するはずでした。しかし、実際には、深海のチョウチンアンコウは浅海や海底に生息する種よりも形態的な多様性(フェノタイプの分散)を獲得していました。例えば、典型的な丸い体型のチョウチンアンコウに加え、「ウルフトラップ型(wolftrap phenotype)」と呼ばれる顎の形状が罠のように発達した種類も存在することが確認されました。
エヴァンズ博士は次のように述べています。
「チョウチンアンコウは、バチペラジックゾーンという資源の乏しい環境において、適応放散の好例の一つかもしれません。バイオルミネッセンス(発光)や巨大な口といったユニークな特徴が、限られた資源を利用する上での優位性をもたらした可能性があります。」
ただし、研究者らは、適応進化だけでなく、緩和された選択圧やランダムな変異も形態の多様性に寄与した可能性を指摘しています。
進化速度の比較:深海魚と沿岸魚の違い
研究チームは、異なる生息環境のチョウチンアンコウ類を比較し、意外な発見をしました。例えば、サンゴ礁や沿岸域に生息するイザリウオ(フロッグフィッシュ)は、多様な環境に囲まれているにも関わらず、深海の仲間に比べて進化速度が遅いことが判明しました。
フォーシェ氏は次のように述べています。
「通常、サンゴや海藻などの多様な環境要素と相互作用する魚は、多くの形態的な変化を示すと考えられています。しかし、実際には、周囲に何もないはずの深海の魚の方が、はるかに形態的な多様性を示していました。」
これは、進化生物学の常識を覆す発見であり、深海の環境が予想以上に進化を促進する可能性があることを示唆しています。
研究手法:進化の足跡を解き明かす
本研究では、以下の高度な手法を駆使してチョウチンアンコウの進化を解析しました。
系統解析: 132種、1,092の遺伝子領域を解析し、進化系統樹を構築
化石較正およびゲノムデータ: 進化の時間軸を推定
形態測定: 博物館標本を用いた3D CTスキャンによる頭蓋骨形態解析
進化傾向の解析: 進化速度や形態的変異の評価(系統比較法・ベイズ解析)
祖先環境の再構築: どのような環境から適応したのかを推定
エヴァンズ博士は、本研究の意義を次のように述べています。
「チョウチンアンコウは、極端な環境の中でどのように生物が進化できるのかを示す完璧な例です。この研究は、深海の生物多様性を理解するだけでなく、進化の創造性や柔軟性を示すものでもあります。」
進化の知見がもたらす未来への展望
本研究は、単にチョウチンアンコウの進化を解明するだけでなく、極限環境における生物の適応戦略についての新たな視点を提供します。深海は、地球上で最も未解明な生態系の一つであり、炭素循環や生物多様性の維持にも重要な役割を果たしています。この研究成果は、地球環境の変化に対する生物の適応能力を理解する上でも極めて重要です。
さらに、この研究はマクロ進化(生物の大規模な進化パターン)に関する重要な疑問にもアプローチしています。つまり、種はどのように適応し、多様化していくのか?限られた環境条件の下で、どのようにして進化の可能性が広がるのか?これらの問いに対する答えを探るための貴重な手がかりとなるでしょう。
[News release] [Nature Ecology & Evolution abstract]



