古代DNAから非骨格組織のDNAメチル化パターンを推定—人類進化研究に新たな展望
人類の進化を理解する上でDNAメチル化(遺伝子発現の重要なマーカー)の役割は大きい。しかし、化石記録には脳やその他の非骨格組織が保存されないため、これまでその変化を直接分析することは困難でした。そこで今回、ヘブライ大学遺伝学部・生命科学研究所およびエドモンド&リリー・サフラ脳科学センター(ELSC) のヨアヴ・マソフ博士課程学生(Yoav Mathov) らの研究チームは、骨格以外の組織におけるDNAメチル化パターンを古代DNAから推定する革新的な方法を開発しました。
本研究は、リラン・カルメル教授(Liran Carmel) とエラン・メショレル教授(Eran Meshorer) の指導のもとで行われ、その成果は2024年11月20日、Nature Ecology & Evolution に掲載されました。研究論文のタイトルは、「Inferring DNA Methylation in Non-Skeletal Tissues of Ancient Specimens(古代試料の非骨格組織におけるDNAメチル化の推定)」 です。
骨から脳のDNAメチル化を推定する新手法
これまでの古代DNA研究は、骨組織に保存されたDNAに依存してきました。しかし、今回の研究では、発生過程におけるDNAメチル化のパターンを利用することで、骨組織に見られる変化を他の組織にも適用できることが明らかになりました。
研究チームは、生存する現代人および動物のDNAメチル化データを基にアルゴリズムを訓練し、最大92%の精度で様々な組織のDNAメチル化を予測することに成功しました。このアルゴリズムを古代人のDNAに適用したところ、特に前頭前野の神経細胞において1,850ヵ所以上のDNAメチル化の変異が存在することが判明しました。
このうち多くの部位は、脳の発達に重要な遺伝子と関連しており、中でもニューロブラストーマ・ブレークポイント・ファミリー(NBPF) の遺伝子群は、人類の脳の進化と深い関係があることが知られています。
人類の脳進化を解明する新たな窓口
「骨以外のDNAメチル化パターンを分析できるようになったことで、特に脳細胞がどのようにエピジェネティックに進化してきたのかを理解する新たな手がかりが得られました」と、マソフ氏は述べています。
この手法は、人類学や進化生物学の研究領域を大きく広げる可能性を秘めています。これまで化石から得られる情報は主に骨に限られていましたが、今回の研究によって組織特異的なエピジェネティック変化を推定し、人類進化の新たな側面を明らかにすることが可能になりました。
また、この研究成果は、脳の進化や神経機能の発達にエピジェネティクスがどのように関与してきたのかを理解する手がかりとなり、今後の研究に大きな影響を与えると考えられます。



