Johns Hopkins Kimmel Cancer Centerの研究チームは、主として幹細胞分裂の際のランダムな突然変異を原因とするがん発症の比率を、がん発生の組織タイプすべてについて調べる統計モデルを作成した。その測定によると、すべての組織タイプで成人がんの3分の2は遺伝子のランダムな突然変異を原因としてがんが発生する「不運」であり、残り3分の1だけが環境や遺伝などの要因によるものとの結果が出た。
Johns Hopkins University School of MedicineのClayton Professor of Oncology、Johns Hopkins, Ludwig CenterのCo-Director、Howard Hughes Medical InstituteのInvestigatorを兼任するBert Vogelstein, M.D.は、「がんの原因はすべて不運、環境、遺伝の3種の組み合わせによるものであり、個々のがんでその3因子がそれぞれがん発症の原因として寄与している率の数値化モデルを作成した」と述べている。
Dr. Vogelsteinはがん遺伝学の分野で広く認められた権威であり、長年の同僚研究者との共同研究による数々の優れた業績には、「ゲノムの守護者」と呼ばれるp53がん抑制タンパク質をコーディングしているTP53遺伝子ががん組織中でもっとも頻繁に突然変異していることの発見や遺伝性非ポリポーシス大腸がん (HNPCC) を引き起こす遺伝子の発見などがある。Dr. Vogelsteinは、「たばこなどの発がん物質にさらされながらがんにかからずに長生きしている人々はしばしば『いい遺伝子』を持っているといわれるが、事実はそのほとんどの人が単に運がいいだけだということだ」と付け加え、劣悪な生活習慣が不運要因に加えてがん発症リスクを増加させることもあると警告している。
研究論文は、「この新しいモデルは、がんリスク因子に対する世間一般の考えを改めなければならないことやがん研究資金問題まで様々な面で影響が考えられる」と述べている。この研究論文の共同著者で、Johns Hopkins UniversityのSchool of MedicineとBloomberg School of Public HealthのAssistant Professor of Oncologyを務める生物数学者、Cristian Tomasetti, Ph.D.は、「各組織タイプ全体を通じて、がんの3分の2が幹細胞分裂時のランダムなDNA突然変異に起因するものであれば、生活態度や習慣の改善では一部のがん発症は大幅に減らせても、他のがんについてはそれほど効果がないことも考えられる。がんを早期の治療可能な段階で発見する方法の開発に人材や資金を振り向けるべきではないか」と述べている。
2014年1月2日付Scienceに掲載された統計学的研究報告で、Dr. TomasettiとDr. Vogelsteinは、「平均的個人寿命期間中の31種の組織の幹細胞分裂回数累計に関する科学文献を探した結果、この結論に達した」と述べている。幹細胞は「自己再生」し、個別器官の死滅する細胞を埋め合わせしている。
Dr. Vogelsteinは、「組織固有の幹細胞が分裂中の複製プロセスでランダムなエラー、つまり突然変異を起こすと、DNA中の塩基文字が誤って入れ替わり、その結果、がんになることはよく知られている」と述べている。この突然変異が積み重なるにつれて、がんの顕著な特徴である細胞の無秩序な増殖になるリスクも高くなる。
Dr. Vogelsteinは、「このようなランダムなエラーがどの程度がん発症の要因になっているかは、これまで遺伝因子や環境因子のがん要因ほどには知られていなかった」と述べている。ランダムな突然変異ががんリスクにどの程度寄与しているかを調べるため、Johns Hopkinsの研究チームは31種類の組織の幹細胞分裂回数を図表化し、各組織のがんリスクをアメリカ国民の寿命期間で比較した。
Dr. TomasettiとDr. Vogelsteinは、この「データ散布図」と呼ばれる図表を使い、幹細胞分裂の総回数とがんリスクの相関性を0.804と判定した。この値が1に近づくほど幹細胞分裂回数とがんリスクの間に大きな相関性があるということになる。
Dr. Vogelsteinは、「私達の研究から明らかなように、一般的にはあるタイプの組織中の幹細胞分裂回数の変化は、その組織のがん発症率の変化と高い相関性があるといえる」と述べている。さらに続けて、「たとえば人体の結腸組織は小腸組織に比べると4倍の頻度で幹細胞分裂が起きている。同様に、結腸がんは小腸がんに比べてはるかに発症件数が多い。
Dr. Tomasettiは、「すると、結腸は小腸よりも環境因子にさらされやすく、それが後天性の突然変異頻度を増加させるのではないかという意見も考えられる」と述べている。ところがマウスではヒトの場合と逆で幹細胞分裂の回数は結腸が小腸よりも少なく、同時にマウスのがん発症率は結腸の方が小腸よりも少ないという研究結果が出ている。
研究チームは、「これは幹細胞分裂の総回数ががん発症の重要なカギを握っているという発見を裏付けるものだ」と結んでいる。2人は、がんリスクのばらつきがどの程度幹細胞分裂回数で説明できるかということを統計理論を用いて計算した。これは0.804の自乗ということであり、パーセンテージで表せば約65%という数字になる。
最終的な作業として、2人は研究対象のがんタイプを2つのグループに分類した。その上でどちらのタイプのがん発症率が幹細胞分裂回数で予測できるか、またどちらのタイプが予測を超える発症率になるかを統計理論を用いて計算した。
その結果、22種のがんが、幹細胞分裂過程でのランダムなDNA突然変異による「不運」要因でほぼ説明がつくことと突き止めた。残る9種のがんについては実発症率が「不運」要因による理論的発症率を超えており、不運に加えて環境的または遺伝的な要因が加わっていると見られる。
Dr. Vogelsteinは、「この研究で明らかになったのは、幹細胞分裂回数で予測されるよりも高いリスクを示したのはまさしく私達が予想していたとおりで、喫煙と関係の深い肺がん、日光と関係の深い皮膚がん、それに遺伝的な障害と関係の深いがんタイプだった」と述べ、さらに、「この研究から、喫煙その他の不健康なライフスタイル要因でがんリスクを高めることも明らかになった。
ただし、がんでも多くのタイプはライフスタイル要因や遺伝的要因とは無関係に、がん発症に関わる遺伝子の突然変異が起きてしまう「不運」が主因となっている。
Dr. Vogelsteinは、このタイプのがんを根絶するには、がんがまだ手術で完治できる間に早期発見するのが最善の方法だ」と述べている。
また、研究チームは、「乳がんや前立腺がんなど一部のがんについては、どの科学文献にもこれらの組織の幹細胞分裂頻度について信頼できるデータが見つからなかったため、この研究論文には含めなかった」と述べ、今後、他の研究者がより精確な幹細胞分裂頻度を突き止め、統計モデルをさらに高度なものにすることを期待している。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Vogelstein-Led Study Links Majority of Cancer Risk to Random Mutations Associated with Number of Stem Cell Divisions in Tissues; Suggests Two-Thirds of Cancer Explained by Simple “Bad Luck;” Just One Third by Envirornmental Factors and Heredity



