種の構造と特徴を徐々に改造していくという適応の原則は進化の一つの柱になっている。種の遺伝子的特徴を緩慢かつ不断のプロセスで変化させていくことについては豊富な証拠があるが、状況の変化に適応するためその場で変身する能力を持った生物の存在については研究者はこれまでその存在を想像するだけだった。
Tel Aviv University (TAU) の Department of PhysicsとSagol School of NeuroscienceのDr. Eli Eisenbergが、University of Puerto RicoのDr. Joshua J. Rosenthalと行った共同研究が2015年1月8日付eLifeでオンラインに掲載された研究論文で発表されており、身の回りの環境に適応できるよう、自身の遺伝子をその場で編集し、体のタンパク質の大部分を改変できる動物を初めて明らかにした。研究論文は、“The Majority of Transcripts in the Squid Nervous System Are Extensively Recoded by A-to-I RNA Editing (ヤリイカ神経系の転写の大部分がA-to-I塩基変換型RNA編集によって大規模な再コード化が行われている)”と題されている。この研究は、一部はTAU大学院生のShahar Alonが行ったもので、Doryteuthis pealieii (アメリカケンサキイカ) のRNA編集を調べている。
Dr. Eisenbergは、「この研究で、RNA編集は規則に対する例外的現象ではなく、遺伝情報処理で大きな役割を果たしていることが証明された。ヤリイカのRNA編集がプロテーム全体を大きく変化させること、つまり特定の瞬間にゲノムが発現するタンパク質全体、細胞、組織、あるいは生体そのものを大きく変化させることを明らかにすることで生物のmRNA自己編集が重要な進化や適応の力であることを証明した」と述べている。
また、この研究結果を人間の疾患にも適用することが考えられる。RNAはタンパク質に翻訳される遺伝子情報のコピーである。しかしRNAの「転写」はタンパク質に翻訳される前に編集することが可能で、編集されると異なるタンパク質が発現されることになる。
人間のRNA編集異常は神経障害患者に見られる現象である。ヤリイカやタコがその生涯の間に、あるいは棲息環境の変化に対して生理学的な外観を変化させる事実は、これらの種ではかなり大規模な再コード化が行われていることを示している。
しかし、まだほとんどの種のゲノムのシーケンシング行われておらず、ヤリイカやタコの再コード化もまだ検証されていない。この新しい研究のために研究チームはヤリイカからDNAやRNAを抽出した。
研究チームは、TAUのDNAシーケンシグ、計算解析設備を使ってRNAおよびDNAシーケンスと観察結果の違いを比較した。RNAとDNAのシーケンスで一致しない場合は「編集済み」と判定された。
Dr. Eisenbergは、「ヤリイカのRNA転写の60%が編集されていたという研究結果は驚くべきものだ。それに比べるとショウジョウバエの場合、全体の3%程度しか編集されない。なぜ、ヤリイカはそんなにも大規模な編集をするのか。一説にはヤリイカはきわめて複雑な神経系を持っており、無脊椎動物には珍しい高度な行動様式を示すといわれている。あるいは、温度その他の環境の変化に対応するためにこのようなメカニズムを巧みに利用しているのかも知れない。
研究チームは、まだシーケンシングが行われたことのないゲノムを持った生物の再コード化の判定にもこの研究手法を使うことができるのではないかと期待している。
Dr. Eisenbergは、「動物界でこの現象がどれほど一般的なのかを突き止めたい。
このメカニズムがどのように調節されているのか、環境順応性を獲得するためにどうやって利用しているのかなど知りたいことがある。
また、人間にも当てはめることができるのではないか。人間の疾患は異常な折り畳み構造のタンパク質によって引き起こされることが多く、そういうタンパク質が有毒であることも多い。従って、ヤリイカの細胞で示したように大規模な再コード化によって引き起こされがちな異常な折り畳み構造のタンパク質の処理が未来の医療のアプローチとして非常に重要になることが考えられる。
また、ヤリイカのメカニズムから我々が学ぶことがあるのかという疑問だ」と述べている。同研究チームは、タコの遺伝子編集というテーマの研究に対して、Israel-U.S. Binational Science Foundationの研究助成金を受けた。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Genetic Editing for Immediate Adaptation: The “Astonishing” Squid Edits Up to 60% of Its Nervous System RNA Transcripts On-the-Fly; Drosophila Just 3%



