DNA分子は長いヌクレオチド配列の中に、生物がどのように機能すべきかを指示する遺伝情報の膨大な蓄えを保持しており、「生命の設計図」と呼ばれています。しかし、この設計図がどのように保存されているかが、情報の読み取り方や使用方法に影響を与えます。細胞が分裂して複製を繰り返す際、DNAはタンパク質(クロマチン)に巻き付けられて緊密に束ねられた染色体として存在します。分裂後には、染色体が緩まり、クロマチンはより疎な状態になります。このクロマチン繊維がどのように折りたたまれ、ループ構造を形成するかが、遺伝子の活性化に影響を与えます。アイオワ州立大学を中心とした研究チームの新しい発見は、このプロセスの理解を深め、将来的に医療分野での応用が期待されています。

クロマチンの3次元構造とその重要性

「クロマチンの折りたたまれた3次元構造は、遺伝子制御において重要です。クロマチンが細胞核内で物理的にどこに位置するかも重要な要素です。クロマチン折りたたみパターンの進化は、ゲノム機能や発達プログラムを変化させ、表現型の進化や環境への適応を促します」と、アイオワ州立大学生態・進化・生物学教授のニコール・バレンスエラ博士(Nicole Valenzuela, PhD)は述べています。「染色体の折りたたみは未だに謎が多い分野で、これまで多くのことを学んできましたが、まだ氷山の一角に過ぎません。」

細胞分裂後の細胞周期の間期における染色体の形状と位置は、遺伝子機能に影響を与えます。例えば、エンハンサー配列と遺伝子プロモーターのような非隣接領域が接触することで、遺伝子が活性化されることがあります。また、活性化されたクロマチン領域内で相互作用可能なDNAは発現されやすい一方で、アクセスしにくい抑制されたクロマチン内のDNAはサイレンシングされます。

カメのゲノム構造における驚きの発見

2024年11月11日付けでGenome Researchに公開されたオープンアクセス論文「De Novo Genome Assemblies of Two Cryptodiran Turtles with ZZ/ZW and XX/XY Sex Chromosomes Provide Insights into Patterns of Genome Reshuffling and Uncover Novel 3D Genome Folding in Amniotes(2種類のクリプトディラン亀の新規ゲノム組み立て:性染色体の多様性と有羊膜類における新しい3次元ゲノム折りたたみパターンを明らかにする)」では、カメのゲノムに関する研究が詳細に述べられています。バレンスエラ博士らのチームは、2種類のカメ(アメリカスッポンとオオアカミミガメ)のゲノムを解析し、これまで他の生物では見られなかった驚くべきクロマチン構造を発見しました。

カメ特有の染色体配置

染色体には「セントロメア」という細い結合点があり、その末端は「テロメア」というDNAの反復配列で保護されています。人間の染色体は細胞核内で互いに分かれて存在しますが、一部の動物ではセントロメアが接触するようにクラスター化し、他の動物ではテロメアが接触します。カメは、セントロメアとテロメアが近接して配置される唯一の動物で、この配置の違いが系統ごとの遺伝子調節に影響を与えています。

バレンスエラ博士は、「これは有羊膜類の祖先の状態であり、そこから哺乳類、鳥類、爬虫類がそれぞれ異なるパターンに進化した可能性があります。カメの研究は、脊椎動物ゲノムの進化を解明する上で非常に重要です」と説明しています。

今後の研究と応用可能性

バレンスエラ博士の研究チームは、さらなるカメの種を対象にした研究を計画しています。これまでの研究ではアメリカスッポンとオオアカミミガメが対象でしたが、すでに4種類のカメに関するデータも収集済みで、これらの解析が進む予定です。また、ワニ、トカゲ、ヘビとの比較研究も計画されています。

加えて、カメのクロマチン構造が環境条件にどのように応答するかを明らかにすることは、ヒトの医療分野にも応用が期待されます。例えば、一部のカメは数週間も酸素なしで生存できるため、脳卒中治療のヒントとなる可能性があります。また、極寒に耐えるカメの能力を解明することで、ヒト組織の凍結保存技術が向上するかもしれません。

「ゲノムの進化的変化の歴史を再構築することで、DNAのパッケージングや染色体の折りたたみがどのように形質に影響を与えるのかを理解できるでしょう。」とバレンスエラ博士は述べています。

今回の研究の意義

カメのゲノム研究は、進化生物学や遺伝学において新たな知見を提供するだけでなく、環境変化が生物学に与える影響の予測や保存活動にも貢献します。クロマチンの高精度マッピング技術を活用し、これまで以上に詳細なデータを取得することで、今後の研究はさらに発展することが期待されます。

 [Genome Research article]

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