クリーブランド・クリニックの研究により、パーキンソン病に関与する可能性のある遺伝的要因および再利用可能な治療薬が特定されました。クリーブランド・クリニック ゲノムセンター(Cleveland Clinic Genome Center、以下CCGC)の研究者らは、先進的な人工知能(AI)遺伝学モデルをパーキンソン病に応用することに成功しました。研究者らは、疾患の進行に関与する遺伝的要因と、パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)の治療に再利用できる可能性のある米国食品医薬品局(FDA)承認済みの医薬品を特定しました。この成果は、2025年1月22日に『npj Parkinson’s Disease』誌に発表された公開アクセスの論文「A Network-Based Systems Genetics Framework Identifies Pathobiology and Drug Repurposing in Parkinson’s Disease(ネットワークベースのシステム遺伝学フレームワークによるパーキンソン病の病態生物学と薬剤再利用の特定)」で報告されています。

 この研究では、遺伝子、プロテオーム、医薬品、患者データなど複数の情報をAIで統合・解析し、単一のデータだけでは見えないパターンを見つけ出す「システム生物学」というアプローチが用いられました。

本研究の責任著者でありCCGCのディレクターを務めるフェイション・チェン博士(Feixiong Cheng, PhD)は、システム生物学分野の第一人者であり、アルツハイマー病の新たな治療法を見出すための複数のAIフレームワークを開発してきた実績を持ちます。

「パーキンソン病は、認知症に次いで2番目に多い神経変性疾患ですが、世界中でこの病気に苦しむ何百万人もの人々に対し、進行を止めたり遅らせたりする方法はまだ存在していません。現状では、現れた症状に対処することしかできないのです」と、研究の第一著者であり、チェン博士のゲノム医学ラボでポスドク研究員を務めるリジュン・ドウ博士(Lijun Dou, PhD)は述べています。「パーキンソン病に対して疾患修飾効果を持つ新たな治療法の開発は喫緊の課題です。」

ドウ博士によると、パーキンソン病の進行を止めたり、逆転させたりする化合物を開発することが困難である理由のひとつは、突然変異によってどの遺伝子がどの症状を引き起こすかという点が、いまだ解明されていないためです。 

「パーキンソン病に関連する既知の遺伝子変異の多くは、実際の遺伝子領域ではなく、非コード領域に存在しています。非コード領域の変異がさまざまな遺伝子の機能に影響を与えることは分かっていますが、パーキンソン病においてどの遺伝子が影響を受けるのかはまだ分かっていないのです。」と彼女は説明しています。 

この統合型AIモデルを用いることで、研究チームはパーキンソン病に関連する遺伝的変異と、複数の脳特異的なDNAおよび遺伝子発現データベースとを照合することができました。これにより、DNAの非コード領域にある変異が、脳内のどの遺伝子に影響を与えている可能性があるかを推測することが可能になりました。さらに、同チームはタンパク質およびインタラクトーム(相互作用ネットワーク)に関するデータとこれらの知見を統合し、同定された遺伝子のうちどれが変異によって脳内の他のタンパク質に影響を与えるかを明らかにしました。その結果、SNCAやLRRK2などのいくつかのリスク遺伝子が特定されました。これらの遺伝子の多くは、調節不全を起こすと脳内で炎症を引き起こすことが知られています。 

研究チームは次に、市販されている医薬品の中に、今回同定された遺伝子を標的とできるものがないかを検討しました。新しい医薬品が発見され、製品化された後でも、その安全性を確認するには平均15年もの厳格な試験が必要とされます。

「現在パーキンソン病と共に生きる人々にとって、そのような長い時間を待つ余裕はありません」とチェン博士は語ります。「すでにFDAに承認されている薬剤をパーキンソン病に再利用できれば、新しい選択肢を患者に届けるまでの時間を大幅に短縮できます。」 

遺伝学的な発見と既存の医薬品データベースを統合することで、研究チームは複数の候補薬を見出しました。そして、電子カルテを参照して、特定の薬剤を服用している患者において、パーキンソン病の診断率に差異があるかどうかを検証しました。たとえば、コレステロール低下薬であるシンバスタチンが処方されていた人々は、生涯におけるパーキンソン病の診断を受ける可能性が低いことが示されました。

チェン博士によれば、次のステップは、シンバスタチンがパーキンソン病の治療に効果があるかどうかを実験室で検証することであり、同様にさらに研究すべきとされた複数の免疫抑制薬や抗不安薬も対象に含まれるとしています。

「従来の方法を用いて遺伝子、タンパク質、医薬品の特定を行うには、膨大なリソースと時間を要する作業でした」とドウ博士は述べます。「しかし、今回の統合ネットワークベースの解析手法により、このプロセスを大幅に迅速化でき、複数の候補を一挙に導き出すことで、新たな治療法発見の可能性を高めることができました。」

 

写真:フェイション・チェン博士(Feixiong Cheng, PhD)とクリーブランド・クリニックの研究チームは、高度な人工知能遺伝学モデルをパーキンソン病に応用することに成功した。(Credit:クリーブランド・クリニック)

 [News release] [npj Parkinson’s Disease article]

この記事の続きは会員限定です