高分子ミセルやリポソームを利用したDDSナノキャリアは抗癌剤などの薬物を内包した第一世代のナノDDSと言われていて、既に一部が実用化され、また臨床試験中です。これらの第一世代ナノDDSの組織への集積は、癌組織などにおける血管透過性の亢進と未発達なリンパ系の構築を利用したenhanced permeability retention(EPR)効果によると考えられます。そこで今回は第一世代ナノDDSから高分子ミセルについて説明します。
 DDSナノキャリアは標的部位に集積したキャリアから薬物を選択的に放出する方法として、部位特異的な化学反応を利用しています。細胞が細胞外の物質を取り込む過程の一つであるエンドサイトーシスとリソソーム酵素の攻撃により消化分解です。このため、高分子医薬品の分子設計として、リソソーム酵素に対する特異的な基質を高分子と薬物を結ぶスペーサーとして利用することは、リソソーム内でキャリアから薬物を放出するための有力な手段となります。

 その研究の例として片山教授らがJ.Am.Chem.Soc.,130,14906(2008)発表した例を紹介します。片山らは細胞内シグナル伝達に重要な役割を担うリン酸化などの酵素反応を利用したキャリア設計をおこないました。まずは、リン酸化部位を含むペプチド修飾ポリアクリルアミドとプラスミドDNAを用いて、薬物を取り込んだ高分子-DNA複合体を作成します。この複合体は癌特異的酵素(PKCα)でリン酸化ペプチドとDNAに分解され、癌細胞内に薬物を放出します。更に、疎水性脂質(ポリカプロラクトン:PCL)と親水性リン脂質(ポリエチルエチレンホスフェート:PEEP)をスルフィド結合した脂質(PCL-SS-PEEP)の疎水性部位を複合体に付けることで、PCL-SS-PEEP親水性部位が外側に来るので体内動態がよくなります。更にPCL-SS-PEEP脂質により複合体の細胞内移行もスムーズになったと報告しています。この方法は高分子-DNA複合体の表面にPCL-SS-PEEP脂質を沢山付けることによって、複合体の体内動態と細胞内移行を促進し、細胞内に入った複合体は癌特異的酵素(PKCα)で分解され薬物を放出する、高分子ミセルを用いたDDSの例です。このDDSナノキャリアでは、PKCαによって基質ペプチド中のセリン(S)残基がリン酸化されることで、複合形成の駆動力である静電気的相互作用が弱まり、遺伝子発現が誘起され、高分子-DNA複合体が分解されると考えられています。このように癌などの疾患細胞が持つ特異的な酵素反応の利用はDDSナノキャリアから薬物を放出する有効な手段と考えられます。


 今回は生体内化学反応に応答する高分子ミセルを利用したDDSナノキャリアの例でしたが、それ以外にも熱を持って疾患部位で薬物を放出する温度応答高分子ミセルや、疾患部位のPHの違いで薬物を放出するPH応答性高分子ミセルなども考えられています。

 それでは、次回はリポソームを利用したDDSナノキャリアの例を紹介します。

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