私たちの脳は、何もしていない「安静時」でも活発に活動しており、その複雑なネットワークの動きは長年、多くの研究者の関心を集めてきました。このたび、最新のデータ解析手法を用いて、安静時の脳活動が持つ隠れた統計的性質を明らかにした画期的な研究が発表されました。脳のシミュレーションや人工知能(AI)を活用した脳モデルの構築に役立つと期待されるこの発見について、詳しくご紹介します。
同志社大学のテッペイ・マツイ(Teppei Matsui)博士、ルイシャン・リ(Ruixiang Li)博士、コウキ・マサオカ(Koki Masaoka)博士、および群馬大学のコウジ・ジムラ(Koji Jimura)博士らの研究チームは、最新の研究論文「「System identification and surrogate data analyses imply approximate Gaussianity and non-stationarity of resting-brain dynamics(システム同定とサロゲートデータ解析は、安静時脳動態の近似的ガウス性と非定常性を示唆する)」」を発表しました 。
これまで、安静時機能的磁気共鳴画像法(rs-fMRI: resting-state fMRI)を用いた脳活動の時空間的なダイナミクスについて、モデルベースや現象論的な説明と比較して、統計的な特徴づけはあまり進んでいませんでした 。トポロジカルデータ解析(TDA: topological data analysis)やイノベーション駆動型共活性化パターン解析(iCAP: innovation-driven coactivation pattern analysis)などの高度な解析技術は、実際のデータと位相ランダム化(PR: phase-randomized)サロゲート(疑似データ)を見分けることができるため、rs-fMRIデータが単なる定常的なガウス過程よりも複雑であることが示唆されていました 。しかし、実際のrs-fMRIデータとPRサロゲートを区別する正確な統計的性質は、これまで特定されていませんでした 。
マツイ博士らの研究チームは、TDAとiCAPが実際のデータとPRサロゲートを見分けるための鍵となる統計的性質を特定するため、システム同定解析とサロゲートデータ解析を実施しました 。以下は、その研究から得られた主な知見です。
- 自己回帰(AR: autoregressive)モデリングを用いて、複数のスキャンを連結したrs-fMRIデータを分析した結果、データには弱い非ガウス性(正規分布に従わない性質)があることがわかりました 。
- しかし、非ガウス性だけでは、スキャン間の非定常性(時間とともに性質が変化すること)が原因となり、現実的なTDAおよびiCAPの結果を再現するには不十分でした 。
- 単一スキャンのデータをARモデルで分析した結果、rs-fMRIデータは単一スキャン内では統計的にガウス分布と区別できないことが明らかになりました 。それにもかかわらず、TDAとiCAPの結果は実際のデータとPRサロゲートの間で異なっていました 。
- そこで、非定常性を保持するように設計された新しいサロゲートデータセットを作成したところ、現実的なTDAおよびiCAPの結果を再現することに成功しました 。
- この結果は、TDAとiCAPがrs-fMRIデータの「非定常性」を捉えることで、実際のデータとPRサロゲートを区別している可能性が高いことを示唆しています 。
これらの結果を総合すると、rs-fMRIデータには近似的なガウス性と非定常性が存在することが示されました 。マツイ博士らの研究は、安静時の脳活動に関するデータ駆動型かつ統計的な特徴づけを提供するものであり、全脳シミュレーションや生成モデルの定量的なリファレンスとして役立つことが期待されています 。
https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.03.25.714361v1

