リアルワールドの反応を追跡:新薬が「誰に効くか」を見極めるパターンを発見

毎年、米国では約10万人が精神病(Psychosis)を経験しています。これは思考や知覚が著しく乱れ、現実感が歪んでしまう深刻な状態です。50年ぶりとなる統合失調症の新薬が承認されてから約1年。2025年11月6日付の学術誌『Nature Mental Health』に掲載された研究では、患者がこの新薬にどのように反応するかを分析し、個別化医療(Personalized medicine)に向けた初期の手がかりを提示しています。この論文のタイトルは、「Preliminary Real-World Predictors of Response to Muscarinic Targeting in Psychosis(精神病におけるムスカリン標的治療への反応に関する実世界での予備的予測因子)」です。

タフツ大学医学部(Tufts University School of Medicine)の神経科学教授、マイケル・ハラッサ(Michael Halassa)博士が主導したこの研究では、統合失調症、統合失調感情障害、または精神病症状を伴う双極性障害で入院した45人の患者の電子カルテ(EMR: electronic medical records)を分析しました。すべての患者は、標準的な治療では症状を十分にコントロールできなかったため、通常の抗精神病薬に加えて、ザノメリン(xanomeline)と塩化トロスピウム(trospium chloride)の配合剤である新薬、コーベンフィ(Cobenfy)を投与されました。

「この新薬は、脳内のドーパミンD2受容体(D2 receptors: dopamine D2 receptors)を主にブロックする従来の抗精神病薬とは異なり、神経系の別の受容体を標的にしています」とハラッサ博士は説明します。「臨床試験ではプラセボと比較して良好な結果が得られましたが、臨床現場での実際のケアにおいて、どのように機能するかを現在も評価しているところです」

ハラッサ博士による探索的調査では、2つの小規模な患者グループの統計分析を通じて、ザノメリンとトロスピウムの併用療法から恩恵を受ける可能性が高い人と、そうでない人を予測するのに役立つパターンが特定されました。

まず24人の患者の臨床データを分析したところ、新薬の追加投与に対して「反応した人」「反応しなかった人」「反応が混在した人」それぞれに予測可能な臨床的特徴が見つかりました。「別の25人のグループでも、統計分析によってこれらの発見が独立して再現されました。これは、生物学的に異なる精神病のサブグループが存在するという考えを裏付けるものです」とハラッサ博士は述べています。

 

どのような患者に効果が高いのか?

社会的引きこもり、意欲の低下、会話の減少といった「陰性症状(Negative symptoms)」が顕著な患者は、通常の抗精神病薬にこの新薬を併用した後に、気分の高揚や社会的関わりの増加など、最も強い改善を示しました。また、過去に刺激物(覚醒剤など)の使用歴がある患者も、この新薬によく反応する傾向がありました。

対照的に、攻撃性や双極性障害の特徴(主に躁症状)を示す患者には、新薬の追加によるメリットはほとんど見られませんでした。知的障害のある患者も改善は限定的でしたが、ハラッサ博士はこの診断を受けた患者数が少なかったため、この結果は暫定的なものであると補足しています。

幻覚などの他の症状に対する効果はさまざまでした。改善が見られた患者もいましたが、陰性症状ほどの劇的かつ一貫した変化ではありませんでした。

 

精神医学における「精密医療」への道のり

ハラッサ博士は、今回の結果について「統合失調症は単一の病気というよりも、発熱や痛みのように、異なる原因から生じ、異なる治療を必要とする『状態の集まり』である可能性を示唆しています」と語ります。博士は、この発見が癌や免疫学の分野ですでに導入されているような、治療反応のパターンに基づいてケアを行う「精密精神医学(Precision psychiatry)」に向けた初期のステップとなることを期待しています。

精神病に苦しむ患者さんの回復への、長く不確実な道のりを短縮するために、博士は「新たに見つかったサブグループが、本当に治療反応を予測できるかどうかを検証する必要がある」と述べています。そのためには、特定の認知機能や生物学的プロファイルを持つ人々を対象に薬剤を比較し、症状の推移を正確に追跡する臨床試験が不可欠です。

今後、臨床医は単に症状が改善したかどうかだけでなく、「どの薬でどの症状が改善したか」を追跡し、より個別化された治療を推進していく必要があります。「もし私たちが、すべての症状の反応や無反応を貴重なデータとして扱い始めれば、個人やその家族が効果的な治療法を見つけるまでにかかる何年もの試行錯誤を減らすことができるでしょう」とハラッサ博士は結んでいます。

[News release] [Nature Mental Health abstract]

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