古代DNAが明かす進化の痕跡—農耕革命初期の適応の謎に迫る
古代ヨーロッパの環境適応の進化をDNA解析で解明。
テキサス大学オースティン校(UTオースティン)とUCLAの研究チームは、古代ヨーロッパ人が環境にどのように適応してきたのかを7,000年以上にわたって追跡しました。彼らは独自の統計手法を開発し、考古学的発掘から得られた古代DNAを分析することで、現代の遺伝子では検出できない自然選択の痕跡を明らかにしました。この研究成果は、2024年11月12日にNature Communicationsに掲載されました。
論文タイトルは「Leveraging Ancient DNA to Uncover Signals of Natural Selection in Europe Lost Due to Admixture or Drift(混合や遺伝的浮動により失われたヨーロッパの自然選択の痕跡を古代DNAで解明する)」です。
「古代DNAを解析することで、進化の変化を直接観察し、歴史上の集団の遺伝的変化を追跡できます。これにより、現代のゲノムでは消失または隠されてしまった遺伝的適応の痕跡を明らかにすることができるのです。」とヴァギーシュ・ナラシムハンは語ります。
過去7,000年の遺伝的適応の痕跡を発見
研究チームは、ヨーロッパ全域および現在のロシアにあたる地域の考古学遺跡から採取された700以上の古代DNAサンプルを分析しました。対象とした時代は、新石器時代(約8,500年前)から後期ローマ時代(約1,300年前)にわたります。
この解析により、現代ヨーロッパ人のDNAでは確認できない進化の痕跡が浮かび上がりました。これは、遺伝的浮動や集団混合といった遺伝子の変化によって、過去に存在した遺伝的適応の痕跡が消失してしまうためです。しかし、古代DNAを直接分析することで、人類の進化のダイナミクスをより正確に再構築することが可能となりました。
自然選択の痕跡を探る—新たな統計解析の活用
研究チームは、古代DNA解析に特化した独自の統計手法を開発し、過去の自然選択の痕跡を従来よりも高精度に検出しました。
研究では、700以上のDNAサンプルを4つの時代区分に分類し、各時代での遺伝子の変化を追跡しました。
新石器時代(Neolithic)
青銅器時代(Bronze Age)
鉄器時代(Iron Age)
歴史時代(Historical)
この分析によって、人類が狩猟採集生活から農耕社会へ移行し、国家が形成される中で、遺伝子がどのように変化したのかを明らかにしました。
「私たちの手法を用いることで、特定の遺伝的特徴がいつ、どのように選択されたのかをより正確に把握できるようになりました。特に、現代のゲノムでは検出できなくなった進化の痕跡を明らかにすることが可能です。」とデヴァンシュ・パンデイは語ります。
農耕社会への適応—遺伝子が語る進化の歴史
研究チームは、14の遺伝領域が時代ごとに顕著な自然選択を受けたことを発見しました。その中でも、ビタミンD合成と乳糖耐性に関連する遺伝子が、特に最近の時代で強く選択されていたことがわかりました。
1. ビタミンD合成に関連する遺伝子
ヨーロッパの高緯度地域では、日照時間が短いためにビタミンDの合成が難しいという課題があります。そのため、皮膚の色が薄くなる遺伝的適応が進みました。これは、特に農耕が広まった後の時代で強い選択圧を受けたことが示されています。
2. 乳糖耐性(成人期の乳糖消化能力)
牛やヤギの乳を飲む文化が定着するにつれ、乳糖を分解するラクターゼ(LCT)遺伝子が活性化した集団が生存に有利になりました。乳糖耐性がある人々は、作物の不作や飢饉の際にも乳製品から栄養を摂取できるため、生存率が高まったと考えられます。
「乳糖を消化できる能力は、作物の不作や食糧不足、病気の流行といった厳しい環境下での生存に不可欠だった可能性があります」とナラシムハン博士は語ります。
感染症への適応—免疫関連遺伝子の進化
また、免疫に関わる遺伝子が複数の時代にわたって選択を受けたことも明らかになりました。
農耕の普及により、人々が集住するようになったことで、新たな感染症が広がりやすくなった。
免疫関連遺伝子の選択圧が高まり、特定の遺伝子が有利に働いた。
しかし、約半数の適応シグナルは最も古い時代にのみ確認され、後の時代には消失。
これは、遺伝的浮動や集団混合の影響により、かつて有利だった免疫関連遺伝子が現代では見られなくなったことを示しています。
未来への示唆—古代DNAが照らす人類進化の道
今回の研究は、古代ヨーロッパ人の進化の過程を明らかにするだけでなく、現代人の遺伝子に隠された過去の適応の痕跡を浮かび上がらせる重要な成果となりました。古代DNAを用いることで、従来は知ることができなかった環境適応の歴史を解明し、人類進化の理解を深めることができます。
本研究は、ポール・G・アレン財団、NSF(米国国立科学財団)、NIH(米国国立衛生研究所)などの支援を受けて実施されました。



