腸内細菌叢の健康を守る18種の有益微生物:炎症と抗生物質耐性細菌を抑制
抗生物質耐性を持つ細菌感染症は、炎症性腸疾患(IBD)の患者や、長期間抗生物質を服用した患者によく見られます。この問題の一因となるのがグラム陰性細菌であるエンテロバクテリア科です。これらの細菌は治療が難しく、感染症対策において大きな課題となっています。
慶應義塾大学医学部と米国のブロード研究所の研究チームは、健康な人の便から分離した18種の細菌株を用いて、有害な腸内細菌の抑制に成功しました。この細菌群は、炭水化物をめぐる競争を通じてエンテロバクテリア科細菌の腸内定着を防ぎ、腸の炎症を軽減することが示されました。
この研究成果は、2024年9月18日にNature誌に掲載され、「Commensal Consortia Decolonize Enterobacteriaceae Via Ecological Control(共生細菌コンソーシアが生態学的制御によりエンテロバクテリア科細菌を排除する)」というタイトルで発表されました。
健康な腸内環境を目指して:細菌の選抜と効果の検証
研究チームは、5人の健康なドナーから採取した便サンプルを基に約40種の細菌株を分離しました。それらを異なる組み合わせで用い、エンテロバクテリア科細菌(大腸菌やクレブシエラ菌など)に感染したマウスに投与する実験を実施しました。その結果、特定の18種の細菌が最も有効に有害細菌を抑制することが確認されました。
慶應義塾大学の本田 賢也博士(Kenya Honda, PhD)を中心とするチームは、これらの細菌株がクレブシエラ菌感染マウスの腸内で、炭水化物代謝に関連する遺伝子(グルコン酸キナーゼや輸送体遺伝子)の発現を抑制し、腸内の栄養競争を増大させていることを発見しました。一方、ブロード研究所のラムニク・ザビエル博士(Ramnik Xavier,PhD)のチームは、患者サンプルを分析し、腸内炎症に関連するグルコン酸経路遺伝子と代謝物の相関関係を解明しました。
微生物療法の未来:安全性と有効性の確認
これらの18種の細菌は、有害なエンテロバクテリア科細菌の増殖を抑える一方で、他の健康な腸内細菌の成長を妨げないことが確認されています。このため、炎症性腸疾患や抗生物質耐性細菌感染症の患者に対する新しい治療法として期待されています。
「腸内微生物叢の健康を定義することはまだ難しい課題ですが、この研究は、有益な微生物がどのように病原菌の負荷を軽減し、炎症を抑制するかを機能的に特定する重要な一歩です」と、ザビエル博士のラボで研究を行った共同責任著者のマリー=マドレン・プスト博士(Marie-Madlen Pust, PhD)は述べています。
臨床応用への課題と展望
研究チームは今後、有益な微生物が生成する未知の代謝物やその正確な機能を明らかにし、腸内健康を最適化する微生物療法の開発を進める予定です。この発見は、抗生物質に依存しない新たな治療法を実現する可能性を秘めています。



