ハダカデバネズミ (Heterocephalus gaber) の長寿とがんに対する抵抗力はよく知られているが、メクラデバネズミ (Spalax属) も、地中の酸素の乏しい環境に棲息しており、長寿でがんに対する抵抗力がある。新しい研究でSpalaxのがん抵抗力が実証され、さらに低酸素環境に適応したことが長寿とがん抵抗力を獲得する上で役立ったのではないかという仮説を立てている。

 

この研究論文は、2013年8月9日付Biomed Central: Biologyのオンライン版オープン・アクセス記事で紹介されている。University of Illinois Biotechnology Centerのfunctional genomicsのdirectorを務め、論文の共著者でもあるDr. Mark Bandは、「私たちの研究で、普通のネズミに比べ、メクラデバネズミが発がん物質に対して高度の抵抗力を持っていることが証明された」と述べている。


Dr. Bandは、以前に低酸素 (hypoxic) 環境に棲息するメクラデバネズミの遺伝子発現解析の研究を指導しており、低酸素環境に対応する遺伝子が老化にも、あるいはがんの抑制や促進にも関係していることを突き止めた。博士は、「私たちは、低酸素耐性、長寿、抗がん性という、この3つの現象が互いに結びついているのではないかと考えている。いずれもストレス環境に適応する進化過程の結果ではないかということだ」と述べている。

東アフリカで社会を形成するハダカデバネズミとは異なり、メクラデバネズミは東地中海地域で孤立生活している。イスラエルのUniversity of Haifaでは、このメクラデバネズミの研究が行われ、50年以上にわたって何千という数のメクラデバネズミを捕獲、研究してきた。同大学の研究者は、Spalaxの寿命が20年を超えるのに、1匹もがんを発症したことがないことに気づいた。ラボのマウスやラットは寿命が最長3.5年程度だが、それでも必ずがんが現れる。Dr. Irena Manov、Dr. Aaron Avivi、Dr. Imad Shamsに率いられたUniversity of Haifaの研究チームは、メクラデバネズミの抗がん性を試験するため、2種類の発がん性物質を投与した。その結果、20匹のSpalaxのうち、(10歳を超えている) 1匹だけが発がん性物質の一種を投与された後で悪性腫瘍を発症した。これに対して、マウスとラットでは、2種類の発がん性物質のいずれかを投与されたマウス12匹、ラット6匹すべてががんを発症した。

そこで研究チームは、繊維芽細胞が細胞外因子を生成し、この因子が他の細胞に対して抗がん作用や制がん作用を発揮することに注目した。それまでのハダカデバネズミの細胞の研究では、繊維芽細胞やその分泌物が抗がん活動をすることを突き止めている。同大学の研究チームは、Spalaxの繊維芽細胞も同じように効果的に2種の乳がん細胞、2種の肺がん細胞を殺す働きがあることを突き止め、さらには繊維芽細胞培養の培地液を希釈し、濾過した後の液でも乳がん、肺がんの細胞を殺すことができた。ところが、マウスの繊維芽細胞はがん細胞に対して何の効力もなかった。

このような結果を説明づけるため、Dr. Bandと同僚研究者は、過去の低酸素環境におけるメクラデバネズミの研究で得られた遺伝子発現プロフィールをチェックした。そこで、研究チームが発見したのは、Spalaxでは、通常の地上酸素濃度 (21%) の時と、低酸素状況(3, 6, 9, 10%) では、DNA修復、細胞サイクル、プログラムされている細胞死を制御する遺伝子そのものの制御が異なることだった。さらに、同じ環境でも、マウスやラットの場合には、地上酸素濃度や地下の低酸素状況では遺伝子調節も異なっていることが分かった。Dr. Bandによると、Spalaxは、ヒトの転写因子タンパク・コードを持つ遺伝子のがん関連突然変異と同一の (転写因子でがん抑制遺伝子としても知られている) p53遺伝子の変形を生まれながらにして持っていることがわかった。この転写因子タンパクは他の遺伝子の活動を制御するため、動物が環境に対応する能力にも影響を与える。また、「イスラエルの研究グループが、Spalax p53はアポトーシス (プログラムされた細胞死) を抑制するが、細胞周期停止とDNA修復メカニズムを強化することを突き止めた」と述べている。

Dr. Bandは、「低酸素症はDNAを破損し、老化やがんの原因にもなることがあり。したがって、DNAを修復するなど低酸素症に対する防御のメカニズムが、メクラデバネズミの持つ老化やがんに対する抵抗力の説明になり得る」と述べ、さらに、「DNA修復、低酸素症耐性、がん抑制に関係する遺伝子は互いに重複していることが明らかになっている。これまでにその正確な機序は突き止められていないが、Spalaxではそれらの機序が互いに関係していることは実証できた。この研究で得られた一つの教訓は、疾患の機序を研究するために有用な新しいモデル動物を見つけたということであり、おそらく新しい治療剤も突き止めたのではないかと思う」と述べている。(メクラデバネズミ画像提供: Institute of Evolution, University of Haifa, Israel)

■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Blind Mole-Rats Resistant to Chemically-Induced Cancers

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