ヒトおよび他の哺乳類における胚発生時には、精子と卵子のエピジェネティックマークと呼ばれるDNAの化学修復がきれいに拭き取られる。これらはその後、受精を待つために予備として置いておかれるのだ。このシナリオは顕花植物では全く異なる。胚細胞など胚生期後にしか現れず、数年後になることもある。

 

現れた後も、エピジェネティックマークの一部しか拭き取られない;一部残ったものは前世代から引き継がれたものであるーどの程度か、ということは今に至るまであまり知られていなかった。

「我々が分かっていたことは、後成的な遺伝―親DNAに存在し、遺伝子発現を修飾する化学“タグ”を子孫が継承する遺伝―が動物よりも植物においてはるかに多く存在するということでした。」と、コールド・スプリング・ハーバー研究所(CSHL)の教授およびHHMI-GBMF調査官のロブ・マーティエンセン博士(Ph.D.)は語る。2012年9月20日付けのCell誌(オンライン)に掲載された研究記事においてマーティエンセン博士と研究チームは、これらのエピジェネティック・メカニズムを介するゲノム再プログラミングが低分子RNAによって誘導され、次の世代に受け継がれていることを証明した。


植物では男性生殖系列花粉粒の発達に伴い2つの精子細胞が発生し、栄養核と呼ばれる構造が出来上がる。栄養核は精子細胞にエネルギーおよび栄養分を配達することから、“ナース細胞”とも呼ばれている。胚細胞内のDNAは2つの全く異なる状態で存在することが可能であり、1つではDNAが非常に密集しており、個々の遺伝子の“発現”を可能にする細胞機関によるアクセスが不可能な状態である。もう一つの状態ではDNAがそれほど密集していないため、遺伝子発現が可能である。後者の状態では遺伝子物質がアクセス可能であるため、様々な化学基(一般的なのはメチルおよびアセチルの2つ)によって修復される。これらはDNA上の特定の位置に付着する傾向がある。例えばメチルグループが、遺伝子を含む特定のDNAの一配列に付着した場合、遺伝子発現機関によるこの遺伝子へのアクセスは妨げられる。結果、遺伝子の発現自体も妨げられるのである。

植物花粉粒DNA修飾の研究をさらに深めるため、マーティエンセン博士と研究チームはメチル基と呼ばれる特定の化学マークのセットに焦点を当てた。異なる発達ステージの花粉粒を分けて見たところメチル基のDNAへの付着には特徴的なパターンがあることが判明した。またそれに伴い低分子RNAの蓄積もあり、これはサイレンシングに関わる2クラスの低分子干渉RNA (siRNAs)を含む。これらの低分子siRNAはメチル化する場所へのガイドとして機能し、遺伝子発現を抑制するのである。

マーティエンセン研究室と共同研究者(ポルトガル・リスボンのグルベンキアン科学研究所からの花粉専門家を含む)による以前の研究は、これらのエピジェネティック・メカニズムがトランスポゾンを維持するために重要であることを示している。トランスポゾンは発現しながらゲノムの異なる領域にランダムに再挿入する機能をもつことから“ジャンピング遺伝子”とも呼ばれ、DNA損傷や遺伝子機能を妨げる可能性があるために危ないとされている。精子ではトランスポゾンを含むDNAの一部がメチル基を失うため、発現される可能性を持っていたが、種子胚においても同じDNA一配列がメチル化されていたことが、マーティエンセン博士研究チームの本研究によって発見された。

これは成熟花粉のsiRNA(長さ21ヌクレオチド)と種子胚のsiRNA(長さ24ヌクレオチド)の蓄積と関連していた。精子におけるメチル化の損失および受精時における再メチル化が、トランスポゾンの認識と抑制を反映している、とマーティエンセン博士は推測する。“ナース細胞”におけるメチル化の損失もまた、研究チームによる重要な知見の一つである。これらの同サイトにおけるメチル化は関連した精子細胞内に保持されており、また24ヌクレオチドsiRNAとも関連している。このプロセスは生殖細胞精子内で事前にメチル化さら次の世代に受け継がれたものの反復性エピジェネティック・マーキングにつながる。

「植物は前の世代から後天性な形質を受け継ぐことができる理由のひとつとしてこれが存在するのです。動物に出来ることはほとんどないでしょう。」と、マーティエンセン博士は知見する。植物における形質の継承が追跡可能だということは生産者にとって重要である。
「エピジェネティック修飾により継承を同定することにより、異種交配に対する考えを変えられるでしょう。」マーティエンセン博士は推測する。植物の温度変化耐性などは、農業および経済に大きな影響を与えることができるのだ。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Small RNAs Key to Plant Inheritance of Acquired Traits

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