オゼンピックやマンジャロといった画期的な糖尿病治療薬で注目されるホルモン「GLP-1」。もし、この強力なホルモンを私たちの体内で、しかもこれまで知られていなかった場所で作り出せるとしたらどうでしょうか。デューク大学医学部の最新研究が、2型糖尿病治療の常識を覆す可能性のある驚くべき発見を報告しました。血糖値を上げると考えられてきた膵臓の細胞が、実は血糖値を下げる強力な味方を生み出していたのです。

この研究は2025年9月19日に学術誌Science Advancesで発表され、これまで絶食時や運動時にエネルギーを維持するために血糖値を上げるホルモン「グルカゴン」のみを産生すると考えられていた膵臓のα細胞が、インスリン分泌を促進し血糖調節を助ける強力なホルモン「GLP-1」も生成していることを明らかにしました。GLP-1は、大ヒットしている治療薬であるオゼンピックやマンジャロが模倣しているホルモンそのものです。このオープンアクセスの論文は、「α Cells Use Both PC1/3 and PC2 to Process Proglucagon Peptides and Control Insulin Secretion(α細胞はPC1/3とPC2の両方を用いてプログルカゴンペプチドを処理しインスリン分泌を制御する)」と題されています。デューク大学の研究者たちは質量分析法を用いて、ヒトのα細胞がこれまで考えられていたよりもはるかに多くの生物活性を持つGLP-1を自然に産生している可能性があることを見出しました。

デューク大学の科学者であり、本研究の責任著者であるジョナサン・キャンベル博士(Jonathan Campbell, PhD)が率いる肥満・糖尿病研究チームは、年齢、体重、糖尿病の状態が異なるマウスとヒト両方の膵臓組織を分析しました。その結果、ヒトの膵臓組織ははるかに高レベルの生物活性GLP-1を産生しており、この産生がインスリン分泌に直接関連していることを発見しました。

「この研究は、α細胞が私たちが想像していたよりも柔軟であることを示しています」と、デューク大学医学部内分泌学部門の准教授であり、デューク分子生理学研究所のメンバーでもあるキャンベル博士は語ります。「α細胞は、β細胞をサポートし、血糖値のバランスを維持するために、自身が産生するホルモンを調整することができるのです。」

この柔軟性は、2型糖尿病の治療法に関する私たちの考え方を変える可能性があります。2型糖尿病では、膵臓のβ細胞が健康な血糖値を維持するのに十分なインスリンを産生できなくなります。体自身のGLP-1産生を促進することで、インスリンをサポートし、血糖を管理するためのより自然な方法が提供されるかもしれません。

 

役割の切り替え

マウスを用いた研究で、科学者たちがグルカゴンの産生を阻害したとき、インスリンレベルは低下すると予想されていました。しかし代わりに、α細胞は役割を切り替え、GLP-1の産生を急増させ、血糖コントロールを改善し、より強力なインスリン放出を引き起こしました。

「グルカゴンを除去すると、α細胞からβ細胞へのシグナル伝達が妨げられ、インスリン分泌が損なわれると考えていました」とキャンベル博士は言います。「しかし実際には、それは改善されました。GLP-1がその役割を引き継ぎ、結果としてグルカゴンよりもさらに優れたインスリン刺激因子であることが判明したのです。」

これをさらに検証するため、研究者たちは2つの酵素を操作しました。グルカゴン産生を駆動する酵素PC2と、GLP-1を産生する酵素PC1です。PC2を阻害するとPC1の活性が向上し、血糖コントロールが改善されました。しかし、両方の酵素が除去されると、インスリン分泌は低下し血糖値は急上昇しました。これはGLP-1の決定的な役割を裏付けるものです。

 

糖尿病治療への示唆

GLP-1は通常、腸で作られますが、本研究は膵臓のα細胞も食後にGLP-1を血中に放出し、インスリンを増加させグルカゴンレベルを減少させることで血糖値を下げるのに役立つことを裏付けています。

高脂肪食のような一般的な代謝ストレスは、α細胞でのGLP-1産生を増加させることがありますが、その効果は限定的です。この事実は、将来の研究への扉を開きます。もし科学者たちがα細胞からのGLP-1産生を安全に高める方法を見つけられれば、糖尿病患者のインスリン分泌を自然に強化できるかもしれません。

しかし、GLP-1を正確に測定することは容易ではありませんでした。研究チームは、しばしば結果を不鮮明にする不活性な断片ではなく、実際にインスリンを刺激するバージョンである生物活性型のGLP-1のみを検出する、特異性の高い質量分析アッセイを開発しました。

「この発見は、体には『バックアッププラン』が備わっていることを示しています」とキャンベル博士は述べます。「GLP-1は、β細胞にとってグルカゴンよりもはるかに強力なシグナルなのです。代謝ストレス時にグルカゴンからGLP-1に切り替える能力は、体が血糖コントロールを維持するための重要な方法なのかもしれません。」

(追加の共著者: Canqi Cui, Danielle C. Leander, Sarah M. Gray, Kimberly El, Alex Chen, Paul Grimsrud, Guo-Fang Zhang, David A. D’Alessio, all of Duke; and Jessica O. Becker, Austin Taylor, Kyle W. Sloop, C. Bruce Verchere, and Andrew N. Hoofnagle.)

写真;ジョナサン・キャンベル博士(Jonathan Campbell, PhD)

 [News release] [Science Advances article]

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