気温が50度を軽く超え、地面がひび割れるアメリカのデスバレー。生命を拒絶するかのようなこの過酷な地で、ただ生き延びるだけでなく、むしろ「絶好調」で成長する驚異の植物が存在します。その名は、ティデストロミア・オブロンギフォリア(Tidestromia oblongifolia)。この植物が、なぜ猛烈な暑さの中でこれほどまでに活発に成長できるのか。その秘密を解き明かす研究が、気候変動に立ち向かう未来の作物開発に大きな希望をもたらしています。
猛暑を味方にする驚異の成長スピード
ミシガン州立大学(MSU)の研究チームが、2025年11月7日付の学術誌『Current Biology』に発表した論文「「Photosynthetic Acclimation Is a Key Contributor to Exponential Growth of a Desert Plant in Death Valley Summer(光合成順化がデスバレーの夏における砂漠植物の指数関数的成長の主要な要因である)」」によれば、この植物は暑さに耐えるだけでなく、光合成システムを急速に調整することで、デスバレーの夏に成長速度を上げることが分かりました。
研究を主導したカリーヌ・プラド(Karine Prado)氏にとって、この研究は「なぜ他の植物が数時間で枯れてしまう場所で、この植物だけが青々と茂っていられるのか」というシンプルな疑問から始まりました。
「最初に種を研究室に持ち帰ったときは、育てること自体が困難でした。しかし、育成チャンバー内でデスバレーの環境を再現した途端、植物は爆発的に成長し始めたのです」とカリーヌ・プラド氏は語ります。
MSU植物レジリエンス研究所のスン・ヨン・”スー”・リー(Seung Yon “Sue” Rhee)博士のラボのメンバーとともに、特注の育成チャンバーを使ってデスバレーの強烈な光と激しい温度変化を再現したところ、驚くべき結果が得られました。ティデストロミア・オブロンギフォリアは、わずか10日間でそのバイオマス(生物量)を3倍に増やしたのです。対照的に、一般的に耐熱性が高いとされる近縁種は、同じ条件下で成長が完全に止まってしまいました。
45℃が「最も快適な温度」という驚き
この植物は、極限の熱にさらされてからわずか2日以内に、自身の「光合成の快適ゾーン」を上方修正し、エネルギー生産を維持できるようにします。さらに2週間も経てば、光合成の最適温度は45℃に達します。これは、現在知られている主要な作物の中で最も高い数値です。
スン・ヨン・”スー”・リー博士は次のように述べています。
「これは、これまで記録された中で最も耐熱性の高い植物です。この植物がどのように暑さに順応するかを理解することは、温暖化が進む地球において作物を適応させるための新しい戦略を与えてくれます」
細胞レベルで起きている「劇的な変化」
研究チームが、生理学的測定、ライブイメージング、ゲノム解析を組み合わせて調査したところ、この植物の驚異的な回復力は、生物学的な複数の層にわたる見事な連携によるものであることが判明しました。
デスバレーのような猛暑の中では、植物のエネルギー生産を担う細胞小器官であるミトコンドリアが、光合成を行う葉緑体の隣へと移動します。さらに、葉緑体自体も形状を変化させ、高等植物ではこれまで見られなかった独特の**「カップ状」の構造**を形成します。これにより、二酸化炭素(CO2)をより効率的に取り込み、ストレス下でもエネルギー生産を安定させていると考えられます。
また、熱にさらされてから24時間以内に、数千もの遺伝子がその活性を切り替えます。その多くは、タンパク質や細胞膜、光合成の仕組みを熱ダメージから守ることに関連しています。さらに、ルビスコ活性化酵素(RCA: Rubisco activase)という重要な酵素の生産を増強し、高温下でも光合成をスムーズに進行させているのです。
温暖化する世界における農業のモデル
今世紀末までに世界の気温は最大で5℃上昇すると予測されており、熱波はすでに小麦、トウモロココシ、大豆といった主要作物の収穫量に打撃を与えています。人口が増加し続ける中、食料生産を増やす方法の確立は急務です。
スン・ヨン・”スー”・リー博士は、「砂漠の植物は、私たちが直面し始めた課題を解決するために、何百万年もの歳月を費やしてきました。今、私たちにはゲノム解析(Genomic analysis)や高解像度ライブイメージング、システム生物学(Systems biology)といったツールがあり、彼らから学ぶ準備ができています」と強調します。
カリーヌ・プラド氏も、「この研究は、単に一つの砂漠植物がどのように暑さに勝つかを示すだけではありません。すべての植物が変化する気候にいかに適応できるかという『ロードマップ』を示しているのです」と締めくくりました。
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