米National Institutes of Health (NIH) は、St. Joseph's Hospital and Medical CenterのBarrow Neurological Institute、Phoenix Children's Hospital、Translational Genomics Research Institute (TGen) (写真) の研究計画に対して今後5年間に400万ドルの研究資金を約束した。この研究計画は、脳損傷の程度を示す分子シグナルを見つけ、医療コストの軽減、脳損傷リスクのある患者を判定し、患者の速やかな快復に役立てようという試み。
TGenは、2013年12月4日付プレスリリースでこの発表を行った。また、University of California, San FranciscoやStanford Universityもパートナーとしてこの研究に参加している。細胞外RNAを詳しく洗い出した分子プロファイルは、脳出血後の血管痙攣リスクの高い患者を判定できるはずで、脳出血には、脳と脳を覆っている薄い膜の間に出血するくも膜下出血や、脳内の動脈壁が異常に膨らむ、脳動脈瘤と呼ばれるものが破裂して出血するなどがある。RNA分子マーカーを突き止めることができれば、個別化医療にも新しい基準を設定することができ、医師は急激な患者の容体の変化にも迅速に対応し、二次損傷を早めに食い止めることができる。
この研究の研究責任者の一人で、Neurological Surgeryの内勤医、Barrow Neurological Instituteの准教授を務めるDr. Yashar Kalani, M.D., Ph.D.は、「この研究で、脳損傷を食い止め、検査とそれに伴うコストを抑え、患者の入院日数を短縮することができればと期待している」と述べている。Barrowでは、Dr. Robert Spetzler、Dr.Peter Nakaji、Dr. Felipe Albuquerque、Dr. Cameron McDougallらも研究に参加している。
血管痙攣とは、脳内の出血が周辺を刺激し、血管が攣縮する症状を指す。血管痙攣が起きると脳への血流が減り、その部分の脳損傷が起きたり、さらには脳の一部が壊死することさえある。脳動脈瘤破裂の患者の半分くらいしか生き延びることができず、生き延びた場合でも往々にして一生重度の障害を抱えることになる。脳動脈瘤破裂から10日ほどの間に血管が狭まり、脳の酸素不足、脳梗塞を経て脳の損傷へと発展する。Dr. Kalaniは、「この期間に何が起きているかが分かれば、適切な処置で二次損傷を防ぐことができるようになるかもしれない」と述べている。Barrowは患者の治療を行い、血液と髄液のサンプルを採取、それをTGenが分析することになっている。最近のTGenの研究では、髄液でもRNAバイオマーカー探索の塩基配列解析ができることが示されている。サンプルは毎日検査し、測定値を比較、変化を調べる。
この研究の一部はBarrowとPhoenix Children's Hospitalとのパートナーシップで行われることになっており、こちらは、同じ脳内の出血ではあるが、新生児に見られる脳室内出血を対象にする。新生児の脳室内出血は、脳への血流量と酸素供給量の低下に伴って二次的に起きる症状である。脳室内出血は水頭症や脳の損傷の原因であり、脳性マヒその他の運動機能や認知機能の発達の遅れを引き起こす。Phoenix Children's HospitalのBarrow Neurological Instituteで研究責任者を務めたDr. P. David Adelsonは、「この研究で、小児脳卒中固有の特徴について一歩知見を深めれば、小児患者にできる限りの治療ができるようになるし、病後の長い生活についても改善できる」と述べている。Phoenix Children's HospitalのBarrow Neurological InstituteとUniversity of Arizona College of Medicine-Phoenixの准研究員を務めるDr. Jorge Arangoは、「さらに、研究が進めば、リスクを抱えた小児の判定方法、似た症状を持つ成人患者との違いなども突き止められればと考えている。そうなれば、既存の治療法もさらに的確に用いることができるばかりでなく新しい治療法の開発にもつながるのではないか」と述べている。
TGenの研究チームは、成人と小児双方を対象とする研究で最新鋭のシーケンシング装置を用いてRNA転写を解読し、リスク患者を判定するバイオマーカーを探す計画になっている。National Institutes of Health (NIH) 出資のこの研究で研究責任者を務めているTGen's Neurogenomics Divisionの准教授、Dr. Kendall Van Keuren-Jensen, Ph.D.は、「過去数年の間に、RNAによって修飾された機能的、調節的機序の理解が爆発的に深まった」と述べている。TGenのNeurogenomics Divisionの准教授を務め、このプロジェクトの研究責任者でもあるDr. Matt Huentelman, Ph.D.は、「細胞外RNAが疾患の機序に関する情報を与えてくれ、しかも発症前の疾患マーカーになる可能性については非常に期待している。すべてうまくいけば、これらのマーカーを疾患の臨床管理の改善に結びつけることもできる。そもそも、私たちが新しい資金交付を受けて研究しているのもそのためだ」と述べている。
このような研究が可能になったのも、光学機器の性能とコンピュータ速度の不断の向上のおかげであり、TGenの最先端の技術もシーケンシング速度は向上し、かつ経費は下がっている。初めてヒト・ゲノム全体の解析が行われた時には27億ドルの経費と13年の歳月を要したが、現在では同じシーケンシングを数日で、経費も$5,000をかけずに可能になっている。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください: TGen and Collaborators Receive $4 Million Grant to Focus on RNA Biomarkers of Brain Injuries



