シェフィールド大学とカリフォルニア大学サン・ディエゴ分校の科学者は、合成発泡タイプの素材を用いて自然の細胞外基質(ECM)の生成過程を模倣する研究を進めているが、幹細胞が正しく接着するために必要なランダムな接着性を再現することに成功した。この成果は、世界中の科学者にとって、幹細胞の成長に適した接着性のあるバイオマテリアルを創り出す上で非常に重要な手がかりとなるものだ。
これまで、ECM生成過程を再現する実験では接着性のある細胞を均一に広げるだけだったために、幹細胞が組織細胞にまで成熟し最大限度まで成長することを妨げてきた。
大学の生物医学部のジュゼッペ・バタグリア教授は、「この研究では2つのタイプのポリマーを使った。一つは接着性があり、もう一つは接着性がなく、この2つのタイプのポリマーは溶液の中で分離する性質がある。この2つのポリマーの混合液をオリーブ・オイルに加えたバルサミック・ビネグレットのようによく攪拌すると、オリーブ・オイルに相当する接着性のない物質の中に、バルサム・ビネガーに相当する接着性のあるポリマーのナノ・レベルのパッチがランダムに分布する。言い替えれば、この2つのタイプの物質は泡の中で相分離し、ポリマー同士がはっきりとした領域を形成する。
この接着性のあるポリマーと接着性のないポリマーを一定の比率で混ぜ合わせると、泡中の接着性ポリマー領域のサイズと分布をコントロールすることができる。泡中の接着性のあるポリマーを少なくすると接着性のパッチが小さくなると同時に分散率も高くなる。人体の中でも自然のECMで同様のことが起きる。
実験の大部分を手がけたバタグリア教授とPriyalakshmi Viswanathan博士は、「研究チームが驚いたのは、泡に幹細胞を接着させようとした際に、幹細胞が正しく接着するためには、ランダムな接着性と均一な接着性の双方のバランスが必要だということが分かったことだ。これは幹細胞が組織細胞にまで成熟する際にも必要になるらしいことも分かった。ある意味、幹細胞はゴルディロックス (昔話に出てくる金髪の女の子で、熊の親子の家に入り込み、熊の食べ物を食べてしまうなどして、熊の親子が帰ってきた時には寝入っていた。父母子熊のスープ、椅子、ベッドを、熱すぎる、冷たすぎる、ちょうどいい、硬すぎる、軟らかすぎる、ちょうどいいというように選り好みすることから、「どちらにも偏らない適度な状態」を意味する喩えに用いられている) に似ており、足場があまり接着性が強くてもだめだし、接着性が不足してもだめで、幹細胞が接着し、組織細胞にまで成長するのに適した接着性が考えられる。
このデータは、シェフィールド大学の合成生物学教授、バタグリア博士とサン・ディエゴ分校のバイオエンジニアリング准教授、アダム・エングラー博士との共同研究の後、2012年12月12日付「Journal of the American Chemical Society (米国化学会誌)」号に掲載され、2012年12月13日付「Nature」誌で「ハイライト」に取り上げられている。写真は、新しく開発された泡状バイオマテリアルの走査型電子顕微鏡像。このバイオマテリアルに適度のランダムな接着性を加えることで幹細胞が接着し、成熟した組織細胞に成長することができる。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Stem Cell Random “Sticky Spots” Recreated by Scientists



