院内感染などで問題となる手強い細菌、クロストリディオイデス・ディフィシル(C. diff)。この菌が、なんと他の腸内細菌にとっては「毒」となる物質を、自身の「栄養」に変えて生き延びる驚きの戦略を持っていたことが明らかになりました!私たちの食卓にものぼるブロッコリーなどの野菜に含まれる可能性のあるこの物質と、C. diffのしたたかな関係とは?感染メカニズムの新たな理解と、未来の治療法につながるかもしれない最新の研究成果を、わかりやすくご紹介します。医療関連感染性下痢の最も一般的な原因菌であるクロストリディオイデス・ディフィシル(C. diff: Clostridioides difficile)は、ヒトの腸内常在菌を殺す化合物を生存と増殖に利用し、感染した腸内で競争上の優位性を獲得できることが明らかになりました。ヴァンダービルト大学医療センター(VUMC: Vanderbilt University Medical Center)の研究者チームは、C. diffが、ブロッコリーなどの食品に含まれる可能性のある有毒な化合物「4-チオウラシル」を利用可能な栄養素に変換する仕組みを発見しました。
2025年3月25日に学術誌「Cell Host & Microbe」に掲載された彼らの発見は、C. diff感染の分子的要因の理解を深め、新たな治療戦略を示唆するものです。この論文のタイトルは「A Thiouracil Desulfurase Protects Clostridioides difficile RNA from 4-Thiouracil Incorporation, Providing a Competitive Advantage in the Gut(チオウラシル脱硫酵素はクロストリディオイデス・ディフィシルのRNAを4-チオウラシル取り込みから保護し、腸内での競争優位性を提供する)」です。
疾病管理予防センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)によると、C. diffは米国で毎年約50万件の感染症を引き起こしています。C. diff感染のリスクを高める要因には、抗生物質の使用、65歳以上の年齢、病院やその他の医療施設への最近の滞在などがあります。
他の病原体と同様に、C. diffも生存と増殖のためには栄養素を獲得しなければなりません。
「私たちは、C. diffが感染中に必要とする栄養素と、私たちが食べるものが腸内でC. diffが食べるものにどう影響するのかを理解しようとしています」と語るのは、本研究の筆頭著者であり、ヴァンダービルト大学感染・免疫・炎症研究所所長で病理学のアーネスト・W・グッドパスチャー記念教授であるエリック・スカー博士(Eric Skaar, PhD)のもとで研究を行う大学院生のマシュー・ムネケ氏(Matthew Munneke)です。
研究グループは、DNAとRNAの構成要素であるヌクレオチドに着目しました。これは、C. diffに関してはまだ十分に研究されていない栄養素のクラスです。研究者たちは、C. diffが感染を引き起こすためには特定の種類のヌクレオチド(ピリミジン)を獲得する必要があることを発見し、C. diffが関連化合物である4-チオウラシルからピリミジンヌクレオチドのウラシルを回収するために使用するTudS(チオウラシル脱硫酵素: thiouracil desulfurase)という酵素を発見しました。
彼らは、4-チオウラシルがRNAに取り込まれ、TudS酵素を持たない腸内常在菌にとっては有毒であることを示しました。しかし、C. diffでは、TudSが4-チオウラシルを修飾して無毒化し、栄養素として利用可能にします。研究者たちは、4-チオウラシルを投与されたマウスや、ヒトの糞便から分離された細菌群集に4-チオウラシルを添加した新しいミニバイオリアクターモデルにおいて、TudSがC. diffの「適応度」に寄与することを実証しました。
「4-チオウラシル代謝はC. diffにとって有益であると考えています。なぜなら、それは細菌の燃料となる栄養素として機能し、また近隣の細菌を阻害する可能性があり、それによってC. diffは腸内環境でさらなる競争上の優位性を得られるからです」とムネケ氏は述べています。
TudS酵素は、C. diff感染症治療のための新しい治療標的となる可能性があります。この酵素は多くの腸内常在菌(やヒト細胞)には存在しないため、TudSを標的としてC. diffを殺す抗菌薬は、健康な腸内細菌叢の維持に役立つ可能性がある、と彼は指摘しています。
研究者たちはまた、C. diffのTudSをプロバイオティクス株である大腸菌(E. coli: Escherichia coli)に加えると、in vitroモデルでC. diffの適応度の優位性が低下することも示しました。
「この酵素を持つプロバイオティクスを利用して、C. diffが腸内で繁殖する能力を弱め、排除できるかもしれません」とムネケ氏は語ります。
研究者たちは4-チオウラシルがヒトの腸内に存在することを示しましたが、この化合物の供給源は不明です。アブラナ科野菜(ケールやその他の葉物野菜、ブロッコリー、カリフラワーなど)を豊富に含む飼料を摂取する家畜は4-チオウラシルのレベルが高く、またブロッコリーにも含まれていることから、食事由来の供給源がヒトの腸内における4-チオウラシルの存在に寄与している可能性が示唆されます。
「4-チオウラシルの供給源を理解するにはさらなる研究が必要ですが、もしそれが食事由来であれば、C. diff感染に対する食事介入の参考になる可能性があります」とムネケ氏は述べています。
とはいえ、アブラナ科野菜を食べるのをやめるべき時ではありません。健康な腸内では、一部の常在菌がTudS関連酵素を持っており、4-チオウラシルを栄養素に変換できる可能性があります。C. diffに感染した腸内では、これらの微生物が欠けている可能性がある、とムネケ氏は言います。
「Cell Host & Microbe」誌のこの論文には、VUMCからキャサリン・シェルトン博士(Catherine Shelton, PhD)、ダリアン・キャロル博士(Darian Carroll, PhD)、ニコル・カーチョフ博士(Nicole Kirchoff, PhD)、マーティン・ダグラス博士(Martin Douglass, PhD)、M・ウェイド・カルカット博士(M. Wade Calcutt, PhD)、キャサリン・ギブソン=コーリー獣医学博士・博士(Katherine Gibson-Corley, PhD)マリベス・ニコルソン(Maribeth Nicholson, PhD)医師・公衆衛生学修士、マリアナ・ビンドロス獣医学博士・博士(Mariana Byndloss, PhD)も著者として名を連ねています。フロリダ大学およびベイラー医科大学の共同研究者も本研究に貢献しました。
画像;クロストリディオイデス・ディフィシル(C. diff: Clostridioides difficile)
