2013年4月13日付のCleveland Clinicの臨床検査技師による記事は、臨床検査室でのLC-MS/MSの様々な利点を強調している。著者らは、過去10年間にLC-MS/MSが急速に普及してきた主要因として、ガスクロマトグラフィ=質量分光分析 (GC-MS) や免疫学的測定法などの検査技術に比べてLC-MS/MS の長所を挙げている。GC-MSと異なり、LC-MS/MSはやっかいなサンプル調製作業を必要としない。このサンプル調製作業はしばしば退屈な誘導体化や時間のかかるクロマトグラフィ処理時間など様々な問題がある。事実、LC-MS/MS技術の記事を見ると、タンパク質沈殿、固相抽出、液相抽出などに5分以下のクロマトグラフィ処理時間を必要とするだけである。さらに、研究者は、「LC-MS/MSは、GC-MSと違って、標的とするサンプルの分子量や極性の制限を受けないため、MSで測定できるサンプルの種類がはるかに広がる」と述べている。そのため、LC-MS/MSは、内分泌学 (ステロイド)、治療薬物モニタリング (免疫抑制剤)、先天性代謝異常 (有機酸やアシルカルニチン)、臨床および法医学的毒物学 (薬物乱用検査), 栄養評価 (ビタミン) などのように特に難しい検査分野を含めて幅広い用途がある。 研究者チームは、「とは言え、現在臨床検査室で用いられているLC-MS/MS機器の数は他の診断分析装置と比べるとまだまだ少ないが、それにもいくつかの理由がある。まずLC-MS/MSの最大の弱点は装置の複雑さで、診断方法の開発や全面的なバリデーション、機器の保守整備には高度に熟練したラボ担当者を置かなければならない。一部のメーカーはそのために顧客を支援することもしており、カラム、キャリブレータ、コントロールなどのキットを提供しているが、LC-MS/MS機器での検査に提供されているのは自家製のアッセイに限られており、標準化はまだまだこれから解決しなければならない問題として残っている。 論文は、「この問題を混乱させているのは、LC-MS/MSアッセイのバリデーションの規準について国家的なガイドラインも幅広い合意もなく、そのためこの種のアッセイは失敗しがちだということだ。マトリクス効果のようにありふれた問題でさえ十分に解明されず、方針も立てられていないケースでは特にその傾向が強い」と述べている。

「もう一つの大きな障害は装置を購入する際には巨額の初期投資 ($200,000から$400,000) を必要とすることである。この額は小さい検査室なら購入をためらうレベルである。さらには臨床検査室のニーズをサポートする適切な現場サービスに欠けるということも障害になっている。最後に、LC-MS/MSとLISを接続しようとする努力がほとんどなされていないことが挙げられる。これは特に大量の処理を扱う検査室などではサンプルの取り違えや分析後のコピー・エラーをなくすために重要である。それはともかくとして、論文は、「LC-MS/MSは様々な障害はあるが、診断検査室にとっては大きなメリットがある。アメリカでは、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI) が、LC-MS/MS分析法のバリデーションの統一ガイドラインの必要を認め、専門家を集めてガイドラインの編成’にあたらせている。ガイドラインが発表されれば、患者医療で優れた検査法を保証するために大きく前進することになる。今後、現場サービス、購入しやすさ、自動化、LISとの接続などで臨床検査室のニーズが適切に満たされるようにするためにはメーカーとのコミュニケーションが不可欠になる」と述べている。

2014年11月、CLSIが、臨床化学LC-MS検査法ガイドラインを発表した。この文書は、臨床検査室でのLC-MSの開発とバリデーションに関するガイドラインを記載している。C62-A Document Development Committee Chairholderを務め、メリーランド州ボルティモア市のJohns Hopkins University of Medicine でAssociate Professor of PathologyとDirector of Clinical Toxicology and Point-of-Care Testingを務めるWilliam Clarke, Ph.D., M.B.A., D.A.B.C.C.は、「この文書は、LC-MS分析法開発のベスト・プラクティス・ガイドラインとして有用であり、LC-MS検査法を導入する前に徹底したバリデーションを行うテンプレートとして用いることができる。このガイドラインの普及実施によって現場で多様なサンプルの臨床LC-MSアッセイの整合化が進むことを希望する」と述べている。 

結論として、LC-MS/MS分析技術は、臨床検査室にとって多大なメリットがあると思われるが、まだ装置のコストや操作にかなりの技術的熟練を必要とするなど、いくつかの障害が残っている。それでも、メーカーは、自動化システムやキットなど機器の稼働に必要な器材を開発していくことが予想され、LC-MS/MS分析のメリットがさらに高まり、この技術を臨床検査室でさらに幅広く利用する推進力になっていく。この記事の初めの方で述べたが、免疫学測定法をLC-MS/MS分析に置き換えるだけでも200億ドルの市場の可能性がある。それだけでも進歩の強い動機になるはずだ。 

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Edited by Michael D. O'Neill

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