コロナウイルスのmRNAワクチンで注目を集めた「核酸医薬」
サイエンス出版部 発行書籍
この3年間のコロナ禍でワクチン接種の話が良く出ています。特に直近ではコロナウイルスオミクロン株亜系統BA5で、今まで以上に高い第7波の感染拡大に見舞われ、4回目のワクチン接種が勧められています。しかし、ウイルスは変異することにより薬に対する耐性も獲得するので、今のワクチンがBA5の感染予防にどれほど効果があるか疑問視されていますが、少なくても重症化を防ぐ効果は高いと考えられています。
ところで、コロナウイルスのmRNAワクチンとはどのようなものなのでしょうか。一般的にRNAはゲノムDNAの一部分を転写したもので、その後翻訳され蛋白質なります。コロナウイルスのmRNAワクチンはこのmRNAから翻訳さら蛋白質が出来ることを利用して、コロナウイルスの表面の蛋白質をコードするmRNAを人工合成してワクチンを作ります。そのため、このワクチンを接種すると体内でコロナウイルス表面の蛋白質が生成され、この蛋白質を免疫細胞が取り込むことで、ウイルスに対する抗体が生成されるので、体内でのウイルスの増殖を抑えることが出来ます。この様にDNAや転写因子のRNAを利用した薬の分野を「核酸医薬」と言います。最近この核酸医薬に分野が進んでおり、低分子医薬から抗体医薬に続く第3の医薬と言われています。
そこで、今回は核酸医薬について話しましょう。人のゲノムDNAは遺伝子数3万個強の遺伝子情報を持っています。このDNAからmRNAに転写され、蛋白質が出来て細胞が増殖されることで人体を維持しています。しかし、DNAの遺伝子の一部が変異していると、そのmRNAは蛋白質に翻訳される際に、蛋白質の欠損、異常蛋白質産生や蛋白質の異常発現などにより、細胞の異常増殖や機能異常を起こしてしまい、これが疾患に繋がるのです。そのためmRNAを利用して薬を作り、体内で疾患を阻害する蛋白質を発現したり、疾患RNAを切断したりトラップすれば治療が出来ると考えられます。ところが、mRNAは非常に分解し易く安定に保つのが難しい状態でした。これを解決したのが、古市泰宏博士(新潟薬科大学客員教授)で、国立遺伝学研究所とロシュ免疫研究所在席中に、mRNAを安定に存在させ効率よく蛋白質を生成するために、mRNAに特殊な構造(キャップ構造)があることを発見しました。この研究により、mRNAにキャップを付けることでmRNAを薬にすることが可能になったわけで、キャップ構造の発見が核酸医薬の扉を開いたと私は考えています。
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昭和48年3月 立命館大学理工学部卒業
昭和48年5月~
昭和56年4月 電気通信大学材料科学科、コロンビア大学化学部研究員
昭和56年6月 日本ロシュ株式会社研究所 入社
平成8年4月 日本ロシュ株式会社研究所天然物化学部、機器分析グループ長
平成16年10月 中外製薬株式会社研究本部化学部分析グループ長
平成21年4月 中外製薬株式会社 定年 シニア職
平成26年4月 中外製薬株式会社 退職
平成26年5月~現在 株式会社バイオシス・テクノロジーズ 取締役&チィーフ・テクニカル・オフサー(CTO)
平成27年4月~平成31年3月 聖マリアンナ医科大学分子病態情報研究講座講師
平成31年1月~現在 株式会社Spectro Decypher 取締役&チィーフ・テクニカル・オフサー(CTO)