高分解能MS/MSにより得られたプロダクトイオンスペクトル解析時の注意点-2
サイエンス出版部 発行書籍
こんにちは。質量分析屋の高橋です。前回の関連投稿で、以下に示すプロダクトイオンスペクトルでおかしいと思う点についての疑問点を投げておきました。今回はその解説をします。 ここで言う“おかしい”というのは、このm/z 355プリカーサーイオン(1価)に対して有り得ないプロダクトイオンが観測されているという点です。このプリカーサーイオンの精密質量は355.1175であり、C, H, N, Oの元素を設定し2 ppmのmass tolerance(装置の性能を考慮)で組成推定を行うと、C19H13N7O(不飽和度17.0、誤差-0.31 ppm),C20H19O6(不飽和度11.5、誤差-0.32 ppm),のC6H21N5O12(不飽和度-1.0、誤差-1.75 ppm)の3候補が得られますが、同イオンの同位体パターンとC数との関係および不飽和度から、C20H19O6の可能性が最も高いことが分かります。 このm/z 355.1175プリカーサーイオンが開裂して生成するプロダクトイオンとしては、m/z 337.1070とm/z 319.0963の2イオンは有り得ますが、m/z 285.0092とm/z 266.9986の2イオンは、マスディフェクトを考慮すると考えられません。マスディフェクトは、日本質量分析学会のマススペクトル関係用語集1)では以下のように定義されています。 “原子, 分子, イオンについて、 質量数 (mass number) またはノミナル質量 (nominal mass) あるいは整数値で近似した質量から、モノアイソトピック質量 (monoisotopic mass) を差し引いた値。 正と負のいずれの値もとりうる。” 従って、355.1175, 337.1076, 319.0963, 285.0092, 266.9986のマスディフェクト
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)