マススペクトル解析に知っていると役立つマスディフェクト値について-2
サイエンス出版部 発行書籍
質量分析屋の髙橋です。大分前になりますが、このコラムでマスディフェクト値について解析しました。今回は、その具体的な例を、実際のマススペクトルを見ながら解説していきます。 図1に正イオン検出のエレクトロスプレーイオン化で得られたペプチド(ロイシン・エンケファリン)とシロキサンのマススペクトルを示します。両方とも高分解能質量分析計を用いて得られたデータであり、m/zの確度は高いです。 このシロキサンのマススペクトルは、LC/MSにおいて頻繁に観測されるバックグランドイオンとして、このブログで紹介しています。注目すべきは、両スペクトルでメインピークとして観測されているイオンのm/z値の小数点以下の数値です。両者ともに整数部分は500台で大差ないのにも関わらず、小数点以下の数値は(a)では0.3204、(b)では0.1666と大きく異なっています。上で紹介したマスディフェクト値に関するコラムの中の図2で示しているように、500程度の質量の分子に対して、精密質量の小数点以下の部分が0.1666と言うのは、通常の有機分子に対しては小さすぎるため、この事を見て図1(b)に示すマススペクトルは何らかの夾雑物由来のイオンである可能性が示唆されます。もちろん、このような物質が分析対象となる事もあると思いますので、その場合には夾雑物とは言えませんが。 ただし、フラボノイド配糖体のように、分子中に多くの酸素原子を含む有機分子では、質量の小数点以下の部分がペプチドなどよりもかなり小さくなります。蕎麦などに多く含まれるルチンのモノアイソトピック質量は610.15338であり、図1(b)で観測されているm/z 610.1860(理論値は610.2201)よりも更に小さな小数点以下の数値をもちます。フラボノイド配糖体は、植物系の天然物の分析では非常に重要な物質であり、単純に小数点以下の数値だ
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)