多価イオンの電荷数の求め
サイエンス出版部 発行書籍
質量分析屋の髙橋です。ペプチドやタンパク質など、分子内にアミノ基などプロトン受容性の官能基を複数もつ物質を正イオン検出のエレクトロスプレーで測定すると、1つの分子に対して複数のプロトンが付加した多価イオンが生成し易い事は良く知られています。 マススペクトルの横軸はm/z(mはイオンの質量を統一原子質量単位で割った値、zはイオンの電荷数)で表され、zが1の時つまりは1価イオンでは、m/zはイオンの質量と等しくなり、イオンのm/z値とイオン種から元の分子の質量を推測する事が出来ます。 一方、zが複数の時つまり多価イオンの場合、m/zとイオンの質量は大きく異なり、イオンの電荷数が分からないと元の分子の質量や分子量を推測する事は出来ません。 多価イオンのマススペクトル解析では、イオンの電荷数を知る事は極めて重要です。 ここでは、ペプチドやタンパク質の正イオンエレクトロスプレーにより得られたマススペクトルを例にとり、多価イオンの電荷数を判断する方法を2つ解説します。 1.同位体の分離挙動から判断する方法 これは、同位体ピークのm/z差から電荷数を判断する方法です。以前のこの記事で、マススペクトルにおいて観測される同位体ピークについて解説しています。C, H, N, Oを中心に構成される通常の有機化合物のマススペクトルでは、モノアイソトピックピークに対して約+1の質量をもつ同位体ピークの大部分は、13Cを1つ含む分子由来です。同位体の質量差は約1なので、1価イオンの場合、同位体ピークのm/z差は1になります。ところが多価イオンでは、マススペクトルの横軸はm/zなので、同位体ピークのm/z差は1を電荷数で割った値、即ち2価イオンでは約0.5、3価イオンでは約0.33になります。実際のマススペクトルで確認してみましょう。図1に正イオンエレクトロスプレー
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)