質量分解能と分子の質量・分子量の関係


サイエンス出版部 発行書籍

こんにちは! 質量分析屋の高橋です。 前回、マススペクトルから得られるのは、基本的には分子の質量情報であって分子量情報ではないことを解説しました。今回は、マススペクトルから分子量情報が得られる場合もあることを、質量分解能(mass resolving power)との関係において解説します。   質量分析計(MS装置)の最も重要な性能の一つが“質量分解能”です。質量分解能は、日本質量分析学会のマススペクトロメトリー関係用語集1)では、以下のように定義されています。 “ある特定の質量分解度(mass resolution)の値を得ることができる質量分析計の能力” また、質量分解度は以下のように定義されています。 “あるマススペクトルについて、観測されたピークのm/zの値を、スペクトル上でこのピークと分離されて観測される(仮想的な)ピークのm/z値との差の最小値Δ(m/z)で割った値;(m/z)/ Δ(m/z) 質量分解能および質量分解度を表示する際は、その値を求めるのに用いたm/zの計測値と、Δ(m/z)の決め方を示す必要があります。Δ(m/z)は通常、ピークの高さに対する一定の割合の高さで求めたピーク幅とし、その際のピークの高さに対する割合を示します。殆どのMS装置では、質量分解能は半値幅で定義します。 前回投稿の図1に示したアンギオテンシン-Ⅰの例では、m/z 1296.8のモノアイソトープピーク([M+H]+)に対して、62個の炭素の一つが13Cに置き換わった同位体ピーク(m/z 1297.8)を分離するのには、計算上約1300の質量分解度が必要です。この測定に用いた装置は、5000程度の質量分解能が得られるので、上記の同位体ピークは明瞭に分離して観測されています。このように、分子のモノアイソトープピークと同位体ピークを分離できる質量分解能を備えたMS装置を

著者: 髙橋 豊

髙橋 豊

このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。

バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。

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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長

【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)

【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞

【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段

【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)

【HP】
エムエス・ソリューションズのホームページ
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