マススペクトルは質量分析によって得られる最も基本的なデータであり、縦軸を信号強度、横軸をm/zで表した二次元表示です(mとzはそれぞれイタリック体で表記)。

ここで、mはイオンの質量を統一原子質量で割った値、zはイオンの電荷数を表しています。  図1と2に、異なる化合物を異なる条件で測定したマススペクトルを示します。

 

 

 

MS01
MS02

 

マススペクトルには、大きく分けて①分子構造を保持したイオンと、②分子構造の中の結合が開裂して生成したフラグメントイオン、の二種類のイオンが観測されます。 分子構造を保持したイオンは、例えば正(+)イオン検出条件においては、分子から電子が取れる、分子にプロトン(H+)やナトリウムイオン(Na+)が付加する、などによって生成します。

分子から電子が1つ取れて生成するイオンを分子イオン(M+・)、分子にプロトンが付加したイオンをプロトン付加分子([M+H]+)、分子にナトリウムイオンが付加したイオンをナトリウム付加イオン([M+Na]+)と呼びます。

ここで、“分子構造を保持する”とは、三次元的なコンフォメーションまで含めて保持しているという意味ではなく、“分子内の結合が開裂していない”という意味になります。

分子構造を保持したイオンのイオン種を判定できれば、元の分子の質量を知ることができます。例えば正の分子イオンについては、電子の質量を無視すれば、イオンのm/z値は元の分子の質量に等しくなります。

また、分子構造を保持したイオンとフラグメントイオンとのm/z差(と必要に応じて価数情報)から、分子の部分構造に関する知見を得ることができます。

例えば、分子構造を保持したイオンとフラグメントイオンが両方共1価で、その差が整数値として17や18であれば水酸基、43や44であればアセチル基やプロピル基の存在が考えられます。

更に、イオンの同位体パターンから、分子を構成する元素の種類と数に関する情報が得られることがあります。

例えば、図3に示すように、臭素を1つ含む化合物のマススペクトルにおいて、臭素を含むイオン(1価の場合)は、m/zで2つ違いのほぼ同強度のピーク(m/z 256.16, 258.16)を与えます。

MS03

 

これは、臭素には質量数79と81の同位体があり、それらの天然存在比が50.69 : 49.31であるためです。即ち、図3のm/z 256.16は79Brを含むイオン、m/z 258.16は81Brをイオンであることが分かります。

そして、もし未知の(単離された)化合物のマススペクトルにおいて、このようなイオンが観測された場合、そのイオンには臭素原子が一つ含まれることが分かります。

 

引用文献

1) 旭川医科大学質量分析室ホームページより

 

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