こんにちは。質量分析屋の高橋です!初回は、質量分析計(MS装置)におけるキャリブレーションの話です。 MS装置のキャリブレーションとは、MSで得られるマススペクトルの横軸(m/z、mはイオンの質量、zは電荷数)を補正する操作です。 正確にはマスキャリブレーション、日本語では質量校正と言います。
MSはイオンを分析する技術であり、マススペクトル上に観測されたイオンのm/z値から元の分子の質量を知ることができるため、測定結果として得られたm/z値が正しいかどうかは、質量分析で最も重要なことです。
つまり、キャリブレーションが正しく実行されたかどうか、あるいは今の装置が正しくキャリブレーションされている状態かどうかを検証することが、質量分析で正しい結果を得るためには極めて重要です。
私達はマススペクトルからイオンのm/z値を知ることができますが、MS装置はイオンのm/z値を計っている訳ではありません。
例えば、飛行時間質量分析計(time of flight mass spectrometer, TOF-MS)ではイオンの飛行時間、四重極質量分析計(quadrupole mass spectrometer, Q-MS)ではイオンが四重極を通過する時の四重極に印加する直流電圧と高周波交流電圧を計っています。 そして、キャリブレーションによって、イオンのm/z値と飛行時間や電圧の紐づけがなされているから、イオンのm/z値を知ることができる訳です。
最近のMS装置はソフトウェアの機能がとても充実していて、キャリブレーションが正しく実行されたかどうかを検証してくれます。 その機能はとても有用で便利なのですが、機能に頼りすぎてしまい自ら検証できる分析者が少なくなっているように思います。 日常の業務でMS装置をお使いの分析者の方は、自分自身の目でその検証をできるようにして下さい。
最も簡単な方法は、通常バックグラウンドイオンとして観測されている物質があるので、そのm/z値が真値に対してどの程度の確度であるか、業務に支障ない程度のズレであるか確認することです。 di-(2-ethylhexyl)phthalate (C24H38O4、ノミナル質量390、モノアイソトピック質量390.27701) はプラスチック製品に含まれる可塑剤であり、正イオン検出におけるLC/MSでは、プロトン付加分子([M+H]+)としてm/z391.2843、あるいはナトリウム付加イオン([M+Na]+)としてm/z 413.2662に観測され易いです。
また負イオン検出では、stearic acid (C18H36O2、ノミナル質量284、モノアイソトピック質量284.27152) やpalmitic acid (C16H32O2、ノミナル質量256、モノアイソトピック質量256.24023)が、脱プロトン分子([M-H]-)としてm/z 283.2632, 255.2319に観測され易い傾向があります。m/z値はそれぞれモノアイソトピック質量を示しています。
ただし、これらのバックグラウンドイオンは、移動相条件や設置環境に依っては観測されない場合がありますので、その時には、既知物質を標準試料としてインフュージョン試料導入などによりマススペクトルを観測し、そのm/z値を確認すると良いでしょう。
