パーキンソン病の発症リスクには、まだ解明されていない謎が多く残されています。なぜ同じ遺伝的リスクを持っていても、病気を発症する人としない人がいるのでしょうか?この長年の疑問に、最先端のゲノム編集技術が光を当てました。ノースウェスタン大学の研究チームが、CRISPR干渉法という画期的な技術を用いてヒトゲノムの全遺伝子を探索。その結果、パーキンソン病のリスクに関わる新たな遺伝子群と細胞内の仕組みを発見し、これまで未知であった治療薬の標的を突き止めました。この発見は、パーキンソン病や関連する神経変性疾患の治療に、新たな道を切り開くものとして期待されています。
CRISPR技術でパーキンソン病の新たな遺伝子を発見
パーキンソン病(PD)研究における長年の謎の一つは、PDのリスクを高める病原性遺伝子変異を持つ人の中でも、発症する人としない人がいる理由でした。これまでは、追加の遺伝的要因が関与している可能性が示唆されていました。
この疑問に答えるため、ノースウェスタン大学医学部の新しい研究では、CRISPR干渉法と呼ばれる最新技術を用いて、ヒトゲノムの全遺伝子を体系的に調査しました。その結果、科学者たちはパーキンソン病のリスクに寄与する新たな遺伝子群を特定し、これまで手つかずだった創薬標的への扉を開きました。
パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患であり、世界で1000万人以上の人々がこの病と共に生活しています。
この研究は2025年4月10日付の科学誌「Science」に掲載され、論文タイトルは「Commander複合体はリソソーム機能を調節し、パーキンソン病リスクに関与する(Commander Complex Regulates Lysosomal Function and Is Implicated in Parkinson’s Disease Risk)」です。
「私たちの研究は、パーキンソン病のような疾患の発症には遺伝的要因の組み合わせが役割を果たしていることを明らかにしました。これは、こうした疾患に対して複数の主要な経路を治療標的とすることを検討する必要があることを意味します」と、責任著者であるノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のデービー神経学科長兼ファインバーグ神経科学研究所長のディミトリ・クレインク博士(Dimitri Krainc, PhD)は述べています。
クレインク博士はさらに、「感受性の高い個人の遺伝的要因を特定するには、数万人規模の患者を研究する必要があり、それは困難で費用もかかります。そこで私たちは、ゲノムワイドCRISPR干渉スクリーニングを用いて、細胞内のタンパク質をコードする各遺伝子をサイレンシングし、PDの病態解明に重要な遺伝子を特定しました」と説明します。
Commander遺伝子の変異がPDに寄与
この研究では、Commanderと名付けられた16種類のタンパク質の集合体が、これまで知られていなかった役割を担っていることが明らかになりました。それは、特定のタンパク質をリソソームへと輸送することです。リソソームは細胞の一部であり、廃棄物や古い細胞小器官、その他の不要物を分解するリサイクルセンターのような働きをします。
これまでの研究で、パーキンソン病およびレビー小体型認知症発症の最大のリスク因子は、*GBA1*遺伝子に病原性変異を持つことであることがわかっています。これらの有害な変異は、リソソームでの細胞のリサイクル過程に重要なグルコセレブロシダーゼ(GCase: Glucocerebrosidase)という酵素の活性を低下させます。しかし、なぜ*GBA1*遺伝子の病原性変異を持つ人の中でもPDを発症する人としない人がいるのかは不明でした。
この問題を解決するため、本研究ではリソソーム内で特異的にGCase活性を調節するCommander複合体の遺伝子と対応するタンパク質を特定しました。英国バイオバンクとAMP-PDという2つの独立したコホートのゲノムを調べることにより、科学者たちはPD患者において、健常者と比較してCommander遺伝子に機能喪失型変異が見られることを発見しました。
「このことは、これらの遺伝子の機能喪失型変異がパーキンソン病のリスクを高めることを示唆しています」とクレインク博士は述べています。
リソソーム機能を改善する新たな創薬標的
細胞のリサイクルシステムが機能不全に陥るリソソーム機能障害は、PDを含むいくつかの神経変性疾患に共通する特徴です。本研究は、Commander複合体がリソソーム機能の維持に重要な役割を果たしていることを明らかにし、Commanderタンパク質の働きを助ける薬剤が細胞のリサイクルシステムを改善する可能性を示唆しています。
今後の研究では、リソソーム機能障害を示す他の神経変性疾患において、Commander複合体がどの程度関与しているかを明らかにする必要があります。
「もしこれらの疾患患者でCommander機能障害が観察されれば、Commanderを標的とする薬剤は、リソソーム機能障害を伴う疾患の治療において、より広範な治療ポテンシャルを持つ可能性があります」とクレインク博士は語ります。「この文脈において、Commanderを標的とする薬剤は、リソソームのGCase活性を高めることを目指す治療法など、他のPD治療法を補完する併用療法としての可能性も秘めています。」
本研究には、共同筆頭著者である博士研究員のジョージア・ミナカキ博士(Georgia Minakaki, PhD)と神経学研究助教のナサニエル・サフレン博士(Nathaniel Safren, PhD)のほか、博士研究員のバーナベ・I・ブストス博士(Bernabe I. Bustos, PhD)、神経学助教のニッコロ・メンカッチ博士(Niccolo Mencacci, PhD)など、他のノースウェスタン大学の研究者も貢献しています。
*CRISPR:クラスター化され、規則的な配置を持つ短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)
写真;パーキンソン病の2人の犠牲者: モハメド・アリ(故人)とマイケル・J・フォックス



