呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の構造解明が新たな治療法の鍵に

呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の複雑な構造が、感染による入院やそれ以上の重篤な結果を引き起こすリスクを減らす治療法の開発を妨げていると、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が指摘しています。この問題に対し、ウィスコンシン大学マディソン校の研究者らが発表した新しいウイルス画像が、RSV感染を予防または抑制する鍵となる可能性があります。

RSVは特に、乳幼児、高齢者、呼吸器疾患リスクの高い成人にとって深刻な脅威となっています。他の一般的な呼吸器感染症とは異なり、RSVに対する治療選択肢は非常に限られています。米国では一部の乳幼児向けに予防治療が提供され、ワクチンは妊婦と高齢者向けに承認されているのみです。

研究の背景と成果

RSVの構造は微細で柔軟性のあるフィラメント状で、その特徴が研究者にとって課題となっていました。RSVのウイルス成分のうち、関連ウイルスでも保存されている部分を特定することが難しかったため、有効な薬剤ターゲットを見出すことが困難でした。

ウィスコンシン大学の生化学教授であるエリザベス・ライト博士(Elizabeth Wright, PhD)は次のように述べています。
「RSVと関連するウイルスには、麻疹など重要な人間の病原体が含まれます。これらのウイルスについての知識はRSVタンパク質構造の手がかりを提供しますが、薬剤ターゲットを特定するためには、宿主細胞膜と密接に関連するRSVタンパク質を詳細に観察する必要があります。」

ライト博士のチームは、クライオ電子トモグラフィー(cryo-ET)というイメージング技術を使用し、RSVの形状と機能に重要な分子や構造の詳細を明らかにしました。この研究結果は2024年7月14日に「Nature」にオープンアクセスで発表されました。論文のタイトルは「Assembly of Respiratory Syncytial Virus Matrix Protein Lattice and Its Coordination with Fusion Glycoprotein Trimers(呼吸器合胞体ウイルスマトリックスタンパク質ラティスの構造形成と融合糖タンパク質トリマーとの協調)」です。

新技術とその意義

クライオ電子トモグラフィーは、超低温でウイルス粒子や分子をフリーズする技術です。これにより、生物学的プロセスを停止させ、その瞬間の構造を詳細に捉えることができます。RSV粒子をフラッシュフリーズし、多角度から撮影した2D画像を統合して、原子レベルに迫る高解像度の3D構造を再現しました。

ライト博士らの研究では、RSVの宿主細胞膜との相互作用に重要な2つのタンパク質、RSV Mタンパク質とRSV Fタンパク質の構造が詳細に明らかになりました。

RSV Mタンパク質:ウイルスのフィラメント構造を保持し、RSV Fタンパク質を含む他のウイルス成分を調整。
RSV Fタンパク質:宿主細胞の受容体と結合し、ウイルスが細胞内に侵入する際の融合を調整。2つのFタンパク質が結合してより安定したユニットを形成し、感染準備が整う前にFタンパク質が作用しないよう防ぐ可能性があると判明しました。

今後の展望

研究チームは、RSVの感染を引き起こすタンパク質間の相互作用をさらに探求し、Fタンパク質対がウイルスの感染力を弱体化させる新たな創薬ターゲットとなる可能性を探ります。

写真:エリザベス・ライト博士(Elizabeth Wright, PhD)

[News release] [Nature article]

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