科学者たちは、糖尿病やホルモン障害の治療法の手がかりを予想外の場所で発見しています。それは、地球上で最も毒性の強い生物の一つである海洋のコーンスネイル(イモガイ)から抽出された毒素です。ユタ大学を中心とした国際研究チームは、コーンスネイルの毒に含まれる成分が、人間の体内で血糖値やホルモンレベルを調整するホルモン「ソマトスタチン」に似た作用を持つことを突き止めました。この毒素は、獲物を捕らえるためにコーンスネイルが使用する長期的な効果を持ち、それが糖尿病やホルモン障害の治療薬開発に応用できる可能性があります。
この研究は2024年8月20日にNature Communications誌に発表され、タイトルは「Disruption of Glucose Homeostasis in Prey: Combinatorial Use of Weaponized Mimetics of Somatostatin and Insulin by a Fish-Hunting Cone Snail(獲物の糖代謝調整を乱す:イモガイによるソマトスタチンとインスリン模倣体の複合使用)」です。
新薬設計のための青写真
研究者らが特定したソマトスタチンに類似する毒素「コンソマチン」は、糖尿病やホルモン障害の治療薬改良の鍵となる可能性があります。ソマトスタチンは、血糖値やホルモンレベルなどの上昇を抑制するブレーキの役割を果たしますが、コーンスネイルの毒素であるコンソマチンも同様の働きを持ちます。研究によると、コンソマチンはソマトスタチンの標的となるたんぱく質の一部に作用しますが、その作用は人間のホルモンよりも安定しており、特定の標的にのみ作用するため、副作用を抑えた薬の開発に応用できる可能性があります。
コンソマチンの特性
研究者がコンソマチンの構造を調査したところ、人間のホルモンよりも分解されにくいアミノ酸が含まれており、体内での持続時間が長いことが判明しました。この特徴は、長時間効果を持続させる薬剤の開発において重要な要素となります。また、コンソマチンは成長ホルモンを調整する薬剤など、既存の合成薬よりも高い特異性を持つため、成長ホルモン過剰分泌などの治療に応用できる可能性が高いです。
イモガイから学ぶ
コーンスネイルの毒は獲物の生理機能を精密に狙い撃ちする進化的な仕組みを持っています。ユタ大学の生化学教授であるヘレナ・サファヴィ博士(Helena Safavi, PhD)は、毒素の精密な作用が病気の治療に役立つ可能性を指摘し、「毒性成分を個別に取り出してその生理的影響を調べると、その経路が疾患に関連していることが多い」と述べています。コンソマチンは、ソマトスタチンと進化的な系統を共有しており、数百万年にわたる進化の過程でコーンスネイルは自らのホルモンを武器化しました。
未来の研究の展望
研究チームは、コーンスネイルの毒に含まれる他の成分が血糖値の調整に関連する可能性を示唆しており、さらなる毒素の発見が糖尿病治療薬の設計に寄与することを期待しています。ポスドク研究員のホー・ヤン・ヤング博士(Ho Yan Yeung, PhD)は、「コーンスネイルは非常に優れた化学者」と述べ、進化がもたらした薬剤設計の可能性に注目しています。
写真:この研究の筆頭著者であるホー・ヤン・イェン博士(左)と、トーマス・コッホ博士が、採取したばかりのコーンカタツムリを調べてる様子。
