LC/MS/MSのData Dependent Acquisitionにおける多価イオン設定に関する注意点
サイエンス出版部 発行書籍
こんにちは! 質量分析屋の髙橋です。プロテオミクスの研究者の中には、LC/MS/MSのData Dependent Acquisition(DDA)の機能を使ってプロダクトイオンを取得し、タンパク質の同定を行っている方が沢山いらっしゃると思います。分子量にも依りますが、ペプチドの多くはESIにおいて多価イオンを生成するために、DDAの設定で“多価イオンのみをプリカーサーイオンとして選択する”機能を使う場合が殆どです。 この機能は、高分解能質量分析計で用いられる場合が多く、多価イオンであるか否かをシステムが認識するのは、同位体ピークの分離挙動だと推測されます。即ち、図1に示すように同位体ピークのm/z間隔が、1価イオンは1、2価イオンは1/2、3価イオンは1/3になる事に依るものです。 図1 イオンの価数と同位体分離挙動 ここで、ESIでは試料成分の濃度が高い時、クラスターイオンが生成される事が知られています。そして問題になるのが、クラスターイオンの多価イオンも生成される事があると言うことです。 例えばペプチド混合物の中に、ノミナル質量500と言う低分子化合物が大量に含まれていて、イオン化されたとします。ここで、図2(a)に示す様にプロトン付加分子のみが観測されれば、全く問題はありません。しかし、図2(b)のように、2量体の2価イオンが1価イオンに重なって観測されると、システムはこのイオンをノミナル質量1,000の化合物の2価イオンであると誤認識してしまい、プロダクトイオンスペクトルを測定してしまいます。 図2(a)1価イオンの同位体分離パターン、(b)二量体の2価イオンが混ざったパターン 通常の低分子化合物の2量体の2価イオンからのプロダクトイオンスペクトルは、ペプチドとは似ても似つかないパターンになると
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)