心筋梗塞や脳卒中の原因となる動脈硬化は、自覚症状がないまま静かに進行することが多く、既存のリスク評価法だけでは将来の発症リスクを正確に見積もれない患者が少なくありません。中国・阜外医院(Fuwai Hospital)を中心とする研究チームは今回、血液中のタンパク質を分析することで、動脈硬化の進行度と将来の心血管疾患リスクをより精密に予測できることを示しました。この成果は2026年10月20日、学術誌「PLOS Medicine」にオープンアクセスで掲載されました。

論文のタイトルは「Plasma Proteomic Signatures of Subclinical Atherosclerosis Progression for Cardiovascular Risk Stratification: A Cohort Study(心血管リスク層別化のための無症候性動脈硬化進行の血漿プロテオミクス署名:コホート研究)」です。共同筆頭著者はヤニ・ホアン氏(Yani Huang)とルイシン・ガオ氏(Ruixin Gao)で、責任著者はファンチャオ・リウ博士(Fangchao Liu, PhD)とシアンフェン・ルー博士(Xiangfeng Lu, PhD)です。いずれも中国医学科学院・北京協和医学院附属阜外医院(National Center for Cardiovascular Diseases, Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College)に所属しています。

903人を6年間追跡、進行と関連するタンパク質を特定

研究チームは、冠動脈石灰化(CAC: Coronary Artery Calcium)または頸動脈プラークを繰り返し測定した903人の地域住民コホートを約6年間(2008〜2009年から2013〜2014年)追跡しました。117種類のタンパク質パネルから、LASSO回帰という統計的手法を用いて動脈硬化の進行と関連するタンパク質を選び出し、冠動脈石灰化の進行と頸動脈プラークの進行それぞれについて、14種類のタンパク質から成る「タンパク質リスクスコア(ProtRS: Protein Risk Score)」を構築しました。

このProtRSが実際の心血管疾患の発症を予測できるかを検証するため、別の1,835人のコホート(追跡期間の中央値10.4年、2007〜2008年から2018〜2021年)でも解析を行いました。

中リスク群の約2割が「高リスク」に再分類

冠動脈石灰化および頸動脈プラークのProtRSは、それぞれ動脈硬化進行のばらつきの17.1%、18.4%を説明し、動脈硬化進行への影響と実際の心血管疾患発症への影響は強く一致していました(相関係数r>0.75)。ProtRSが1標準偏差上昇するごとに、心血管疾患の発症リスクはそれぞれ1.36倍(95%信頼区間: 1.20-1.54)、1.38倍(95%信頼区間: 1.23-1.54)に増加しました。

さらに、従来のガイドライン推奨リスクスコアにこのProtRSを組み合わせると、リスク分類の正確性を示す指標(NRI: Net Reclassification Improvement)が0.127改善しました(p<0.001)。具体的には、従来の基準で「中リスク」とされていた人の18.6%が「高リスク」に再分類され、再分類された人の10年間の心血管イベント発生率は10.9%に達しました。また従来「高リスク」とされていた人の32.8%は、さらにイベント発生率が高い(13.7%)サブグループとして識別されました。

血液検査だけで「隠れた高リスク群」を見つけ出す

この結果は、血液中のタンパク質パネルを測定するだけで、年齢・血圧・コレステロールなど従来の指標に基づくリスクスコアでは見逃されがちな「隠れた高リスク群」を特定できる可能性を示しています。研究チームは、特に中リスクと判定されている人々において、このタンパク質リスクスコアが早期介入の判断材料として役立つ可能性があるとしています。

なお、研究チームはこのタンパク質リスクスコアの実用化には、さらに大規模な外部コホートでの検証が必要であると述べています。

[PLOS Medicine誌掲載論文]

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