糖尿病治療薬として広く使われているメトホルミン(Metformin)には体重を減らす効果があることが知られていますが、その仕組みの一部は長年謎のままでした。スタンフォード大学(Stanford University)の研究チームは今回、腸に存在するある輸送体タンパク質が、この減量効果の成否を左右する「隠れた門番」であることを突き止めました。この発見は、肥満治療薬の新たな開発につながる可能性があります。

メトホルミンを服用すると、血液中で「乳酸由来フェニルアラニン(Lac-Phe: N-lactoyl-phenylalanine)」という食欲抑制物質の濃度が上昇することが分かっていました。Lac-Pheは腸の上皮細胞内でCNDP2という酵素によって作られ、血流に乗って脳の視床下部に作用し、食欲を抑えると考えられています。しかし、細胞の中で作られたLac-Pheがどのようにして血液中へ放出されるのか、その「出口」となる輸送体はこれまで特定されていませんでした。

この謎を解明したのが、スタンフォード大学病理学部門のジョナサン・Z・ロング博士(Jonathan Z. Long, PhD)の研究室を中心とするチームです。研究成果は2026年10月22日、学術誌「Cell」にオープンアクセスでオンライン掲載されました。論文のタイトルは「MCT6 is an Intestinal Lac-Phe Exporter Required for Metformin-Associated Weight Loss(MCT6は腸管のLac-Phe輸送体であり、メトホルミンに伴う体重減少に必要である)」で、筆頭著者はシュケ・シャオ氏(Shuke Xiao)とアラン・ショシャ・トン氏(Alan Sheng-Hwa Tung)です。

孤児輸送体MCT6の正体を突き止める

研究チームはまず、腸の単一細胞RNA解析データを調べ、Lac-Phe合成酵素CNDP2と相関して発現する輸送体の候補を探索しました。その結果、これまで内因性の基質が分かっていなかった「孤児輸送体(オーファントランスポーター)」MCT6(遺伝子名: SLC16A5)が候補として浮上しました。MCT6は、乳酸を輸送する近縁分子MCT1・MCT4と30〜40%の配列相同性を持つものの、それ自体は乳酸を運ばないことが知られていた分子です。

培養細胞にMCT6を発現させたところ、細胞外(培養液)のLac-Phe濃度が約3倍に増加し、細胞内濃度は約半分に減少しました。これはMCT6がLac-Pheを細胞外へ効率よく排出する輸送体であることを示しています。

MCT6を欠失させたマウスはメトホルミンで痩せない

さらに研究チームは、全身でMCT6を欠失させたマウスと、腸上皮細胞に限定してMCT6を欠失させたマウス(Vil1-Creを用いた条件付きノックアウト)を作成しました。これらのマウスでは、通常時およびメトホルミン投与後の血中Lac-Phe濃度が、正常マウスに比べて約50%低いことが分かりました。

最も重要な発見は、高脂肪食で肥満させたMCT6欠失マウスに、メトホルミンを投与しても体重が減らなかったことです。正常なマウスがメトホルミン投与によって明確に体重を減らした1ヶ月間の実験で、MCT6欠失マウスは体重が減らないか、むしろ増加し、摂食量も多く、脂肪組織量も多いままでした。ところが、このマウスにLac-Pheを直接投与すると、摂食量・体重ともに正常マウスと同じレベルまで回復しました。これは、メトホルミンの減量効果がMCT6を介したLac-Phe放出に依存していることを明確に示す結果です。

なお、MCT6はLac-Phe以外にも、Lac-Tyr・Lac-Trp・Lac-Leu/Ile・Lac-Valなど複数の「N-ラクトイルアミノ酸」を輸送できることが確認されましたが、肥満マウスの摂食・体重を抑制する効果があったのはLac-Pheのみでした。また、運動(特に最大強度の運動)によるLac-Phe濃度の上昇にもMCT6が必要であることが示された一方、中強度の運動では遺伝子型による体重への明確な差は見られませんでした。

既存薬の仕組み解明が導く、新たな肥満治療の可能性

今回の発見は、メトホルミンという既存薬がどのように体重減少を引き起こすのかという長年の謎の核心に迫るものです。代謝産物が細胞内で作られてから全身に作用するまでの「放出」という工程が、薬の効果を左右する制御点になり得ることを示しており、MCT6やその関連輸送体を標的とすることで、肥満治療薬の効果を高めたり、新しい治療戦略を生み出す可能性が期待されます。

なお、MCT6欠失マウスの体重減少耐性は高脂肪食による肥満状態でのみ確認され、通常食のマウスでは見られませんでした。今後、ヒトにおける検証が期待されます。

[Cell誌掲載論文]

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