高齢化が進む中、「何歳まで働けるか」ではなく「何歳まで健康に働けるか」に注目する研究が増えています。中国・復旦大学(Fudan University)の研究チームは 28カ国のデータを統合し 50歳以降に健康を保ちながら働ける期間——健康的就労可能年数(HWLE: Healthy Working Life Expectancy)——を左右する個人レベル・国レベルの要因を明らかにしました。
この研究を主導したのは、復旦大学公衆衛生学院のジンジエ・ジュー氏(Jingjie Zhu)と、華東病院・復旦大学のボー・イェ氏(Bo Ye)で、両者は共同第一著者として貢献しています。責任著者は同大学のジュンリン・ガオ博士(Junling Gao, PhD)です。
研究チームは、米国の健康退職調査(HRS: Health and Retirement Study)、英国のELSA、欧州のSHARE、韓国のKLoSA、メキシコのMHAS、中国のCHARLSという6つの大規模な健康・退職関連コホートのデータを統合し 28カ国に暮らす50歳以上の男怇79,833人、女怇95,485人を対象に解析しました。離散時間マルコフ多状態モデルという統計手法を用いて、各国・各個人の健康的就労可能年数を推定しています。
その結果、50歳時点での総余命は平圣33.59年であったのに対し、そのうち健康を保ちながら働ける年数は平圣10.98年にとどまることがわかりました。男女差も明らかで、男性が12.36年であったのに対し、女性は9.82年と短い結果でした。
個人レベルでは、結婚している人、高い教育を受けた人、健康的な生活習慣を持つ人ほど健康的就労可能年数が長くなる傾向が見られました。一方、慢性疾患は大きな短縮要因となり、特に脳卒中の既往がある人は、健康的就労可能年数が平奇5.49年も短くなることが示されました。
国レベルの要因も重要な役割を果たしていました。1人当たりGDPや医療費支出、税収の水準が高い国、そして政府のガバナンスの実効性が高く、汚職が少なく、ビジネス環境が整っている国ほど、健康的就労可能年数が長い傾向が確認されました。反対に、所得格差(ジニ係数)が大きい国や政治的に不安定な国では短くなる傾向が見られました。さらに、柔軟な働き方の導入や労働参加率の高さ、雇用における機会均等、採用・解雇に関する柔軟な制度を持つ国でも、健康的就労可能年数が長くなる傾向が一貫して確認されました。
研究チームは、多くの国で退職年齢の引き上げが検討されている中、単に「働く年数」を延ばすだけでなく、「健康に働ける年数」をどう延ばすかという視点が政策設計に欠かせないと指摘しています。慢性疾患の予防といった個人向けの介入だけでなく、経済成長やガバナンス改革、柔軟な雇用政策を組み合わせた総合的なアプローチが、持続可能な労働力の確保と医療費負担の軽減につながる可能性があるとしています。
この研究は、中国国家自然科学基金(National Natural Science Foundation of China)や中国国家重点研究開発計画などの支援を受けて実施されました。
2026年9月10日にPLOS Medicine誌に掲載されたオープンアクセス論文のタイトルは「Country- and individual-level factors associated with healthy working life expectancy: A multinational longitudinal study(健康的就労可能年数に関連する国レベル・個人レベルの要因:多国籍縦断研究)」です。
