鎌状赤血球症(SCD: sickle cell disease)は、赤血球が鎌のような形に変形し、慢性的な貧血や激しい痛みの発作を引き起こす遺伝性疾患です。有効な治療の選択肢が限られる中、赤血球内のエネルギー産生を助ける新しいアプローチをとる経口薬が、国際共同の大規模臨床試験で明確な効果を示しました。
この研究成果は、2026年10月24日に医学誌The Lancetに「Efficacy and safety of mitapivat in patients with sickle cell disease (RISE UP): a phase 3, double-blind, global, randomised, placebo-controlled trial(鎌状赤血球症患者におけるミタピバットの有効性と安全性(RISE UP): 第3相二重盲検・国際共同・ランダム化・プラセボ対照試験)」というタイトルで発表されました。試験を主導したのは、米コネティカット大学ヘルスのビリー・アンデマリアム博士(Biree Andemariam, MD)と、カナダ・トロント大学のケビン・クオ博士(Kevin H M Kuo, MD)です。
研究チームは、15カ国、69施設において、16歳以上で過去1年間に2~10回の痛み発作歴がある鎌状赤血球症患者207人を対象に試験を実施しました。患者は2:1の割合でミタピバット(mitapivat)100mgを1日2回経口投与する群(138人)と、プラセボ群(69人)にランダムに割り付けられ、52週間にわたって二重盲検で比較されました。ミタピバットは、赤血球のエネルギー産生に関わる酵素「ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)」を活性化させることで、ATP(アデノシン三リン酸)を増加させ、赤血球を硬くする物質2,3-DPGを減少させる、新しい作用機序を持つ薬剤です。
その結果、ヘモグロビン濃度がベースラインから1.0 g/dL以上改善した患者の割合(ヘモグロビン反応率)は、ミタピバット群で40.6%に達したのに対し、プラセボ群ではわずか2.9%にとどまり、統計的に明確な差が示されました(調整後差38%、95%信頼区間29~47、p<0.0001)。一方、もう一つの主要評価項目である年間痛み発作頻度については、ミタピバット群が年率2.6回、プラセボ群が3.1回となり、数値上は改善傾向が見られたものの、統計的な有意差には至りませんでした(p=0.1213)。もっとも、ヘモグロビン反応が得られた患者に限ると、痛み発作の頻度が26%、入院率が34%それぞれ低下したほか、疲労感の改善や輸血量の大幅な減少(輸血を要した患者の割合が41.1%減少、必要な赤血球製剤の単位数も55.9%減少)も確認されています。
安全性については、重篤な有害事象の発生率はミタピバット群20%、プラセボ群29%で、治療と関連すると判断された重篤な有害事象はミタピバット群でわずか1%にとどまりました。これまでのミタピバット臨床試験と一致する良好な忍容性が示されています。
鎌状赤血球症に対しては、これまでヒドロキシウレアなどの既存薬や輸血療法が中心でしたが、今回のミタピバットは赤血球のエネルギー代謝そのものに働きかける、作用機序の異なる経口薬として注目されています。開発元の米アジオス・ファーマシューティカルズ(Agios Pharmaceuticals)は、今回の結果をもとに米食品医薬品局(FDA)への承認申請を計画しているとしています。
