「老化のスピードは人それぞれ」とよく言われますが、実は男性と女性でも老化の進み方が大きく異なることが、最新の研究で明らかになりました。脳や心臓、肝臓といった臓器ごとに、しかも性別によって異なる"老化のクセ"があるとしたら、将来の健康管理のあり方も変わってくるかもしれません。今回ご紹介するのは、臓器とオミクスデータを横断して男女別の「生物学的加齢時計」を構築した、国際研究コンソーシアムMULTIコンソーシアム(MULTI Consortium)による大規模研究です。

この研究成果は、2026年9月16日に学術誌『Nature Medicine』に「Sex-specific biological aging clocks across organs and omics(臓器・オミクス横断型の性別特異的生物学的加齢時計)」というタイトルで掲載されました。

研究チームは、UKバイオバンク(UK Biobank)、アルツハイマー病神経画像イニシアチブ(ADNI: Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)、そして無症候性アルツハイマー病を対象とした抗アミロイド治療試験(A4試験)といった大規模コホートのデータを活用し、脳・心臓・肝臓・脂肪組織など15の臓器系を対象に、血漿プロテオミクス、メタボロミクス、MRI画像など複数のオミクス手法を組み合わせて、男女別に訓練した38種類の「生物学的加齢時計」を構築しました。

その結果、性別ごとに別々にモデルを訓練する「性別層別化(sex-stratified)」アプローチの方が、男女をまとめて訓練する従来のモデルよりも精度が高く、過学習も少ないことが示されました。さらに、男女間で加齢の仕方には明確な違いが見られ、遺伝的な解析(メンデルランダム化(Mendelian randomization)を含む)からも、心血管代謝系や内分泌系、精神的な特性と臓器の老化との関連が、男女で異なるパターンを示すことが分かりました。

プロテオミクス解析では、シナプス・免疫・血管・代謝に関わるネットワークが、男女でそれぞれ異なる形で生物学的老化を反映していることも確認されました。縦断的な生存解析では、この性別特異的な時計が、全身性の疾患の発症や死亡リスクを、性別・臓器ごとに異なる精度で予測できることも示されています。特に注目されるのは、脳の加齢時計が、前臨床アルツハイマー病を対象としたA4試験における認知機能低下の経過と、性別に依存した関連を示した点です。

研究チームは、性別をまとめたモデルにも男女共通の加齢メカニズムを捉える意義はあるとしつつも、性別特異的なアプローチによって、従来のプールモデルでは見えにくかった男女ごとの遺伝的・分子的・臨床的な特徴を明らかにできる可能性があると述べています。将来的には、臨床試験での患者層別化や、性別に応じた老化予防・治療介入の評価にも役立つことが期待されます。

[News release] [Nature Medicine article]

この記事の続きは会員限定です