偶数電子イオンのフラグメンテーション-3:マスシフト則(±0と+2)の例
サイエンス出版部 発行書籍
LC/MS/MSによるプロダクトイオン分析で対象となる偶数電子イオンのフラグメンテーションの3回目、今回はマスシフトを伴う例について解説します。偶数電子イオンのフラグメンテーションにおけるマスシフトについてはまた別の機会に紹介しますが、直ぐに知りたい方は、故中田尚男先生が論文にまとめられていますので1, 2)、そちらを読んでください。前回に続き、アルギニンのプロトン付加分子([M+H]+)のプロダクトイオンスペクトル(図1)から、典型的な例を示して解説します。 フラグメンテーションに関する基本的な考え方の一つに、¨フラグメントイオンと脱離する中性フラグメントは、両方とも有機化学的に安定な構造である¨、という事があります。今回の解説は、その事が特に重要になります。 図1で観測されているm/z 116, 0699イオンとm/z 60, 0551イオンとの生成について、推定フラグメンテーションを図2に示します。 図2 mz 175イオンからmz 116イオンとmz60イオンへの推定フラグメンテーション 第2回目の記事と同様、イオン化の際にプロトンが付加するのは2つの1級アミノ基のどちらかですが、低エネルギーCIDによって励起状態になった際にプロトンが移動し、グアニジル基の根元の窒素に移ったとき、このフラグメンテーションが起こると考えられます。正電荷に対して隣のC-N結合の電子が2つとも動くと、炭素は電子を1つ失った状態になるため、正電荷をもちm/z 116イオンが生成します。このイオンはそのままの構造で安定であるため、マスシフトは±0です。これは、以前の記事に書いたアンモニア脱離と水脱離によって生成するイオンと同じです。 一方、同じ結合の電子が1つだけ正電荷に向かって動くと、グアニジル基側が正電荷をもちます。しかし、これはラジカルカチオンで
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)